骨なし魚トレースを「骨なし」以外にも
大冷、完成度高い業界唯一のシステム
冷凍食品の有力メーカーであり「骨なし魚」で業界シェアトップの大冷（東京、斎藤修社長）が「骨なし魚」で構築した「トレース情報システム」をバージョンアップし、「骨なし魚」以外の水産加工品にも導入を検討している。「骨なし魚」のトレースシステムは冷凍水産加工品業界で唯一であり、完成度が高い。
「骨なし魚」に使った原料魚が「いつ」、「どこの魚域で獲れ」、「どこに水揚げされ」、「どの工場で」、「どのような品質管理で」加工されたか、という(1)原料履歴、(2)生産履歴、(3)製造工程に関する情報が、利用する顧客のパソコンですぐに確認できるシステム。
システム開発は原料産地業者、海外を含めた工場の理解と協力と、(財)日本冷凍食品検査協会の指導を受けて開発、構築した。現在も冷食検査協会の定期検査を受けている。
顧客は同社のＨＰ「骨なし魚トレース情報システム」の検索モードで「パック入り骨なし秋さけ塩焼」などの商品名と、商品の袋、または外箱に付いている「12a49aa」などの“識別コード”を入力すると、次の品質管理情報がカラー画像付きで確認できる。
(1)原料採捕水域、時期、水揚げ地、(2)骨抜き工程、(3)Ｘ線検査工程、(4)細菌検査、(5)金属検出器、(6)温度検査記録
このデータベースにより、原料魚の産地、加工工場はもちろん、工場のどのラインでいつ、どのように作業し、その間の商品の温度変化まで確認できる。
同社の「骨なし魚」を加工している工場は国内２工場、海外（タイ、ベトナム、中国）に12工場。その全工場ラインにＸ線検査機を導入している。それまでは従業員が１本１本手作業で骨を抜いた後、専従の検査官が手で骨の取り残しを確認していたが、04年から業界に先駆けてＸ線残骨検査機を導入し、客観的な確認作業で取り残しをチェックしている。
Ｘ線検査機の照射Ｘ線値は最大で0.0002Ｇｙ（グレイ）以下であり、食品衛生法関連法規で定める「0.1Ｇｙ以下」をクリアしている。
金属検出器はダミーの金属片入り検体を定期、不定期的にラインに流し、検出器の作業検知能力を常に確認するとともに、「骨なし魚トレース情報システム」のデータベースでも検出精度を示している。
「骨なし魚」は原料魚を３枚卸した後、切り身の中骨を１本ずつ従業員がピンセットで除去している。さんま、さば、あじの塩焼、煮つけなどラウンドのまま食べる商品は、開いた魚をもう一度合わせるが、この際、結着剤として「トランスグルタミナーゼ」（味の素製）という酵素製剤を使う。
この酵素は人体にも含まれているものであり、けがをして出血した場合の触媒として、血液の凝固を早める働きにも使われる。無味・無臭で、使用量の制限もない安全なもの。「骨なし魚」を調理する際、加熱すると酵素は失活する。
大冷が「骨なし魚トレース情報システム」で示す品質管理情報
国内でさらに２工場追加へ
中国産の冷凍水産加工品は安全安心の懸念から、冷凍野菜などと同様に市場全体で売上げが低迷しているが、大冷の「骨なし魚」シリーズは昨年も12.8％増と二ケタ増収を続け、当初見込んだ77億円を上回る79億円に需要を拡大した。「我々が取り組んできた“トレース情報システム”の安全性が高く評価されたためだろう」と斎藤社長は受け止めている。
同社の「骨なし魚」は年間１億3000万食を供給しているが、残骨に関するクレームはほぼ皆無に近い。
加えて最近は国内生産した商品に対し、生協、学校給食ルートなどから強い要望があるため、同社では国内に新たに２工場を増やす考え。「早ければ秋冬向け新製品からでも新たな国内工場で手掛けたい」（斎藤社長）考え。原料、加工工場とも国産という“メイド・イン・ジャパン”の商品に力を入れる。
「骨なし魚」で成功したトレースバックシステムを、骨なし以外の水産加工品、さらには農産加工品などにもヨコ展開するため、品質管理部門を商品本部から分離して専任組織「安全安心推進室」を立ち上げ、取り組みを強化している。