「中国問題」から逃げない
増収増益に流れを引き戻す
――味の素冷凍食品 進藤大二社長
味の素冷食進藤大二社長
天洋食品事件の表面化により、同工場では商品を手掛けていないにもかかわらず、味の素冷凍食品の「ギョーザ」が風評被害を最も受け、売上げが半分に激減するという奈落を見せられた。
味の素冷食の「ギョーザ」はわが国の冷凍食品の中で最大のヒット商品であり、06年には業界で初めて、単品売上げ100億円という金字塔を打ち立てたばかり。単品で100億円は世界でも例のない快挙。それが一挙に底まで落とし込まれたわけだが、黙って厳しい環境が去るのを待っているわけではない。「中国から逃げない」と進藤社長はその姿勢を示す。
天洋事件にどう相対し、どう切り抜けようとしているのか。
「05−10中長期計画の折り返しを過ぎて、後半の３年間に入った。昨年末の段階で事業環境を読み込み、後半の計画を確定したが、その後、さらに原料の高騰が進み、為替変動も大きくなった。しかし、なによりも、天洋事件の影響があまりにも大きく、計画を修正する時間の余裕が持てなかった。
従って、最終計画を達成するためには、08年度のハードルが当初見込み以上に高くなるのはやむをえない」
「前３月期は当初見込みの６％増1280億円に対し、最終的に60億円未達で、営業利益も13億円の見込みに対し10億円減益の４億円で着地した。厳しい嵐の中で、最終４億円で踏みとどまってくれた、というのが実感。貴重な４億円であり、赤字転落をまぬがれた大事な利益と、関係者に感謝している」
「中長期計画の最終2010年度では1340億円の計画だが、社内のオリジナルプランではそれより高い1400億円をめざしており、07年度に対し後半３年で15％増という当初の計画は、伸び率の高い海外の拡大も見込んでおり、年率４〜５％増で充分到達できる数字だった。
しかし、天洋事件で前期は予想を下回ったため、07年度対最終計画比は22％増、年率６〜７％増と相当ハードルが上がった。今期は11％増という予算となる」
“業界�癸院匹肪紂紘枩�
「中長期計画のこれまでの推移をレビュー（回顧）すると、05年度は社長就任１年目で、まずまず。増収増益を確保した。
06年度は中身の濃い１年。売上げは順調だったが、下期から原料高、円安、値引き販売拡大という“３点セット”で減益を強いられた。しかしギョーザ単品で100億円を達成し、春には“価値と価格への挑戦”を掲げ、餃子の事実上の値上げも実施した。
タイの工場に大型投資を決めたのもこの年。長期計画で“世界水準の業界�癸唄覿函匹箸いμ槁犬妨�けて着々と手を打てた１年だった。この年、香港アモイ社を買収した。
07年は年初から厳しい市場環境だったが、08年１月まで増収ペースを続けた。しかし期末に天洋事件の直撃を受けた」
「08年度は天洋事件の後遺症だけでなく、原料高が加速しているため厳しさが増しているが、中長期後半３年間で収益性向上に事業構造を転換させるため、なんとしても今期で増収増益の流れに引き戻す年にしたい。
キーワードは“新価値創造”」
「実現するため、次の５点の戦略に取り組む」
「(1)新価値と価格の追及、実現。
コスト構造を克服し、価値に見合った価格を構築したい。しかし、価格のハードルは一段と高くなっている。原料高といっても、単に価格を引き上げるだけでは消費者の反発を受ける。商品やメニューに対し、消費者はイメージできる価格価値ゾーンを持っている。価値が高いからといって、高すぎては買わない。その選択基準、モノサシを捉えて対処したい」
「(2)品質保証力を向上させる。
独自に構築した“新・安心品質”の取り組みを強化することで消費者の冷凍食品に対する信頼を取り戻す。中国をどの距離に置くか、という判断は様々あるが、当社は中国から逃げずに取り組む。原料、産地、あるいは流通との連動も含め、中国問題に正面から取り組む。これは将来につながるスタート地点となる」
「(3)新たな発想に基づく大幅コスト削減を図る。
これまで原料高、原料調達難の問題が発生すると、“すけそうだら・すり身”の代わりに“いとより”、“ほっけ”を探していたが、代替品がなくなれば手が出なくなる。しかし、一方で、野菜を加えた食品はいま“健康感のある食品”として評価と価値が高まる。こうした発想の切り換えにより、大胆なコスト対策を進める」
「(4)グローバル化を加速する。
既に海外ではタイ、米国、香港の現地冷食グループ法人や日本からの輸出を通じて、海外で70〜80億円の冷食販売実績がある。
中長期ではこれを2010年度までに倍増の130億円規模に拡大する。特に期待する欧州にはこれまでの出張ベースの対応から、現地に駐在員を置いて本腰を入れる。ロシアも視野に入れている。
中国国内の冷凍食品販売については様々な経験と調査結果から難しいと捉えていたが、グローバル化を推進する前提で中国戦略を見直し、改めて可能性を掘り下げることにした。今期は上海、北京など大都市圏を中心とし、フードサービス（外食レストランチェーン、給食等）向けに道筋をつける」
「(5)Ｍ＆Ａ、アライアンスに取り組む。
具体的な事案はないが、冷凍食品業界で新しい“塊”が生まれつつあることを見極め、出遅れないように対処する。突然競争相手が変わることもあり得る。なによりも、業界再編により、原料を他グループに押さえ込まれないようにしたい」
＜＜略歴 1971年（昭和46年）味の素入社。94年調味料部外食グループ長から95年札幌支店長。その後は、97年福岡支店長から、99年取締役大阪支店長、01年東京支社長と大型拠点長を歴任。02年改組で調味料・食品カンパニーのマーケティング本部東京支社長。03年常務執行役員に昇格、調味料・食品カンパニーバイスプレジデント兼マーケティング本部長。本社専務（現代表取締役専務執行役員）に就く伊藤雅俊氏に代わって05年４月１日付で味の素冷凍食品社長に。伊藤氏とは大学も入社時も取締役就任時も同じ。紳士だが、柔道の猛者という一面も。48年（昭和23年）12月１日秋田生まれ。慶応大商学部卒。業界の将来の発展に真摯に取り組む59歳。