中央化学は東京都品川区に東京オフィスを昨年4月開設したところ、商談に訪れるユーザーが増え、既に3000名を超えた。従来までは年間50名がほとんどというから、比べものにならない数字だ。いったい何が変わったというのか。
陳列棚がある商談ルーム、売場のイメージがしやすく、
商談も進む
品川区大崎。都内の中心部を走るJR山手線大崎駅に近い高層ビルの一画に、営業の最前線となる東京オフィスを新たに構えた。再開発が進んでいる大崎は大手コンビニが本社を構え、大手食品卸も本社を昨年移転してくるなど新たなオフィス街として注目が集まっている。東海道新幹線品川駅から1駅、羽田空港からも約20分というのも大きい。
「中京圏のユーザーが商談に訪れる回数が比較にならないほど増えました。今まではその機会に乏しかったのに」(同社)というほど。ユーザーは新幹線に朝飛び乗り、商談し、他にも用事を済ませて、その日のうちに帰宅できるという条件が叶う。
同社の本社があるのは埼玉県鴻巣市。ユーザーにとってなかなかアクセスが厳しかったのは否めない。東京にも事務所があったが、練馬区でやはり距離的な制約があった。しかし、東京オフィスを訪れる人の大幅な変化は、立地条件だけでは説明ができないだろう。
新東京オフィス。事務所であることはもちろん、セミナールームのほか、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの売場を再現したショールーム、弁当・惣菜などの食材・メニューや調理方法を提案するキッチンスタジオを備えている。キッチンスタジオで実際に調理し、容器に盛付け、商品棚に陳列し、見栄えを確かめて意見を交わし合うことが可能になった。容器メーカーでここまでの設備を備えたところはないという。
「ユーザー起点のオフィスにしたい一心でした。それは今までの反省点も当然意識してのことです」と打ち明ける。
これまでは同社から仕掛けなくても、ユーザーが来るものだと思っていた。しかも、スーパーなどの商品開発担当者との接点も非常に少なく、容器を実際に使用する小売担当者の“生”の声を拾えなかった。
テストキッチンルーム
誰よりもユーザーが便利だと感じてもらえるよう心がけている新しい営業拠点。ここでは女性チームが活躍している。彼女たちの名前は「フレール」、10名からなるマーケティング部隊だ。
彼女たちが調査した市場動向は営業部隊にフィードバックされ、前線で活用される。また、彼女たちが持ち寄った他店情報は「とても内容が濃い」とユーザーからも好評という。しかし、「フレール」は新東京オフィス開設を機に発足したわけではない。本社・鴻巣に拠点を置いていた時代から活動していた。
「彼女たちにも苦労をかけてしまいました。せっかくの持ち味を発揮させずにいました」(同社)。
持ち味というのは売場の視点に立った商品開発力、提案力だと同社は評価している。しかし、キッチンスタジオがなかった頃はその力を出し切れなかった。相手先に出かけて容器を提案するが、持っていけるサンプルの数にも限度があった。
これが解決した。東京オフィスにはキッチンはもちろん、容器のサンプルも全種類ある。「“ホーム”で勝負をする体制が整いました。ここではユーザーとともに調理し、それに見合った容器を提案するのに制約がまったくありません。また、100名強を収容できるセミナールームも併設しており、外部の専門家によるセミナーを定期的に開催するなど存分に能力を発揮できます」。女性の活躍は会社にとっても明るい話題であるとともに、事業の原動力にもなっている。
同社は改革を進めている。その1つに挙げているのが生産アイテム数の見直しで、現在5500あるのを4000以下にするよう動き出している。しかし、ただやみくもにアイテム数を落としていくわけではない。新しい素材を開発し、その素材に集約していこうとしている。
そこで開発したのが“スマートダッシュ(SD)”。昨年6月に発表した。
このSDは“耐熱性”、“耐油性”、“省資源”という従来型のPPF素材に、新たに“断熱性”の機能を加えた。特に電子レンジで加熱した直後の容器の熱さを軽減し、すぐ手に持てるほど高い断熱性を実現した。容器を持っても熱くない、しかし、「保温性も高い」という加熱料理に適した素材が誕生した。
営業の拠点が整った。新素材も納得のいくものを完成させた。あとは同社の容器を必要とするユーザー1人ひとりと向き合うだけ。昨夜、私たちが電子レンジを使って食べた夕食に使われていたのかもしれないと思うと、容器1つにも物語を感じずにはいられない。