「過冷却」と「大温度差」に焦点
東京海洋大学 食品冷凍学研究室 渡辺 学准教授(下)

 渡辺学准教授は冷凍食品の凍結方法だけでなく、保存、流通、解凍に至る様々な角度から研究を行っている。今注目しているのが「過冷却」と「大温度差」という。豆腐を過冷却してから一気に凍結すると、テクスチャーが保たれて良い結果が得られたという実験だが、その進捗状況を聞いた。

豆腐で過冷却凍結に成功したが、コントロールが難しい

     渡辺准教授

 ――新しい凍結技術も研究している。
 渡辺 今注目しているのが「過冷却」と「大温度差」です。これは昨年のFOOMAで発表しました。豆腐を過冷却してから一気に凍結すると、テクスチャーが保たれて良い結果が得られたという実験です。問題は豆腐のように均一の組成のものでないと難しいこと。さらに、過冷却を百発百中で発生させられないことです。コントロールが難しい。
 
 ――ちょっとした振動で凍結してしまいそうですよね。磁場や電場でコントロールできるとも思えませんし。
 渡辺 あまり急速に冷やすと豆腐内に温度差が発生してそれが過冷却を終わらせてしまったりと、温度コントロールの難しさもあります。

 ――「大温度差」凍結は実用的?
 渡辺 大温度差はなんてことのない理屈で、ともかく冷凍庫の温度を低くすれば品質良く凍結できるということです。今の凍結方式は熱の伝達率を高めることを重視していますが、それだと食品の外側が速く凍結するだけですから。

 ――確かに、高速の冷風を吹き付けたり、スチールベルトなどで熱の伝導率をいかに高めるかが急速凍結のポイントになっていますが、食品の内部への伝熱は食品の組成でほとんど決まってしまう。
 渡辺 当研究室ではマイナス80℃くらいのストッカーで実験していますが、大きな温度差で急速凍結すると乾燥を防ぐこともできて、品質劣化防止にはかなり有効です。

 ――温度が低ければ速く凍結する。当たり前のようですが、乾燥を含めて品質に良い結果が出ることがはっきり示されることが重要だと思います。
 渡辺 有効だという結果が示されれば、技術開発のモチベーションにもつながります。空気冷媒で超低温を作り出す装置も生まれていますし。

 ――超低温凍結は、それに適した食材やコストとの関係など、用途開発も必要になってくる。
 渡辺 冷凍技術を上手に使えば、水産業など一次産業の収入の安定化などに役立つと考えています。