進化する食品工場(上)
中設エンジがコロナ後の変化を読み解く

 緊急事態宣言が解除され、コロナ後の生活様式や働き方を模索する動きが広がりつつある。食品工場もこれまで以上に感染防止措置を講じたり、最小限の必要人員で安定供給できるよう備えるなど、新たな対応が求められる。

 コロナは食品工場にどのような変化を迫るのか。今年3月17日号の新聞「冷食タイムス」で、食品工場の10年後をテーマに議論してもらった中設エンジ(本社名古屋市、松本吉晴社長)の幹部社員らに再度協力を依頼し、コロナ後の食品工場の在り方や進むべき方向性について考えを聞いた。取材は書面で行った。

協力:中設エンジ
渡辺裕正 執行役員大阪事業本部長
野々村和英 執行役員新規ビジネス室長
喜多道一 エンジニアリング本部長
伊藤健一郎 新規ビジネス室長補佐
内井剛 東京事業本部営業統括部長
金岩聡 広報室副室長

     左から伊藤室長補佐、渡辺本部長、野々村室長、内井部長(撮影は昨年末)

従業員の衛生管理を強化
作業服着用エリアの厳密化など

 ――この数カ月、製造現場は衛生用品が不足する中で感染防止を徹底してきたが、コロナの影響で衛生管理はどう変わるだろうか。

 野々村室長 今後は人が製造に直接関わることを極力減らす動きが生じ、作業員1人ひとりに対する管理レベルもさらに高まるだろう。

 たとえば、工場の玄関から入って外に出るまで、通路などに「関所」のようなカ所を設け、消毒措置を受けないと通過できないようにすることが考えられる。また、私服と作業服を着用する区域を厳密化し、作業服で屋外に出ることを禁止することもあり得る。今は管理が緩い工場が少なくない。清潔区に入る際は「2次更衣」が常識になるだろう。

 空気感染防止措置としては、加熱調理以後のエリアでの空気清浄・殺菌が当たり前になる。さらに言えば、工場立地法が廃止され、工場周囲から樹木や草、露出した土がなくなるかもしれない。

 ――海外の食肉工場では製造室以外の場所がクラスター発生源とされている。

 渡辺本部長 ウイルスを外から持ち込ませないために、入退室時の体温チェックや消毒液の噴霧などの対策を自動化する動きが広がるだろう。換気が十分でなく、人が密集しやすい更衣室や食堂、トイレなどは使い方や清掃方法を変える必要もある。

    喜多本部長

 喜多本部長 新型コロナは食品を介して感染するという事例は今のところ報告されてはいないものの、確かに自動検温や体ごと自動殺菌するなど、人に対する管理体制は強化される。それと、商品の外装殺菌に対する重要性が再認識されるのではないか。

 金岩副室長 これまでも食品工場の多くは食中毒対策などを含めた衛生環境を構築しており、既存の仕組みは今後も活かせるだろう。

 そのうえで「(さらなる)衛生管理の徹底」、「ソーシャルディスタンスの尊重」、「非接触(タッチレス)の実現」の3つを主要キーワードとして追求する流れになるだろう。

工場内のデジタル化
省人化が加速する

 ――今回のコロナ禍でデジタル化による人手不足対策が加速するとの見方がある。
 
 喜多本部長 IoTによる工場運用はさらに進むし、5G(新世代移動通信システム)が大きく貢献するだろう。

 実は現存の食品工場は数名のキーマンによって成り立っているところがある。工場を運営する主力の人材がウイルス感染に見舞われた時にどうするか。IoT技術を活用するなどして、誰もが動かせる工場(始動、通常運用、量産体制の運用等々)にする必要がある。

 渡辺本部長 工場内の省人化や自動化が進むのは間違いない。エリア管理が徹底されるほか、原料・資材の入荷から生産ラインへの移送、商品の保管・出荷までを含めた工場内物流の構築が進む。

 また、コロナ後の新しい生活様式は続くとみており、コロナとの共存をテーマにした工場建設の計画が出てくる可能性がある。食品メーカーだけでなく、AIやIoTのシステムベンダーなども対策を今後検討するのではないか。

 伊藤室長補佐 来日する外国人技能実習生が減ることも予想される。そのため、食品加工場や物流施設で労働者不足対応の省力化システム需要が加速する。

    金岩副室長


 金岩副室長 省人化の流れの中でセンサーや、AIによるディープラーニングを利用した仕組みもさらに加速するだろう。たとえば「エッジAI」はクラウド型と融合した形で進化するかもしれない。
 
 ただ、コロナ禍によって不況になった場合、投資を控える企業と危機こそチャンスととらえる企業に分かれる。もし投資を控える企業が多くなれば、省人化の流れが一時的に止まるかもしれない。

 ――コロナショックで設備投資が足踏みするということか。

 伊藤室長補佐 コンビニやスーパーは内食需要の拡大で業績がこれまで好調だったが、コンビニは最近売上げが減っている。消費マインドが明らかに変化している。食品加工業界は各社が様子見の姿勢で、今は投資を決断しにくい状況にあるようだ。

 内井部長 大手メーカーでは自動化、省人化がすでに相当進んでいる。したがって、今回のコロナ禍でオペレーションが特に変わることはないだろう。

 一方、当社のお客様には労働集約型の工場も多いが、そうした工場で自動化を今後進めることは間違いない。また、業界として設備投資に伴って商品価格を上げることができれば良いが、それが許されなければ淘汰されるメーカーも出てくるかもしれない。

 併せてコロナ後はサプライチェーンや商品構成・形態が大きく変わる可能性が高く、大手の寡占がより進む可能性があるように思う。

フル商品を生産できる工場も
有事に生産アイテム切替え

 ――商品形態や製造工程ではどのような変化が考えられる?

 野々村室長 日持ちする商品の販売比率が高まり、賞味期限延長の技術開発が活発化する。具材をそのまま盛り付けるのではなく、小さなレトルトパックを盛り付ける弁当が出てくるかもしれない。

 製造工程では生産ラインを止めないために、故障予知機能を備えたインテリジェント機器が増加し、エリアごとにフル商品を生産できる工場を設ける動きも出てくるだろう。

 喜多本部長 今回のコロナ禍のように有事の際に売上げを伸ばした食品工場は、製造量をこれまでのMAXからもう一段引き上げるためにどうするべきか考えるだろう。操業時間を延長するのか、生産能力を高めるのか、それとも両方を実行するのか。製造ラインの完全2重化や、機械を停止させずにメンテナンスを行う方法を作り出すことが考えられる。

 また、今後は製造アイテムの変更に柔軟に対応できる工場が求められる。平時は日配品を製造しているが、有事の際に缶詰・レトルトに簡易に切り替える。こうした対応はBCP(事業継続計画)に含めることができるのではないか。

 ――コロナショックで社会は一変した。企業の役割に対する見方にも変化が表れるだろうか。

 野々村室長 SDGsをお飾りでなく、実行していく企業が評価され、そうでない企業は淘汰されるし、Carbon Budget(カーボンバジェット)の少ない企業が評価されるようになるだろう。

 伊藤室長補佐 SDGsに絡めて自然冷媒による冷凍冷蔵設備の需要が増加する。

 喜多本部長 今回のコロナ騒動で様々な製造業の工場が停止した結果、環境改善が進んだが、環境対応はコロナ後も強く求められるはずだ。

 包材プラスチックを使わなくなる動きが鈍り、サーキュラ・エコノミー(循環型経済)を構築するため、包装形態のさらなる変化が必要となるのではないか。