味覚センサは「味の共通のものさし」
インテリジェントセンサーテクノロジー 代表取締役社長 池崎 秀和氏

 店頭や商品パッケージに味覚センサで割り出したデータをよく見かけるようになった。センサで「味を見える化」し、メーカーと流通小売、消費者をつないでいるインテリジェントセンサーテクノロジー。同社の地道な活動が実を結び始めているに違いない。「味覚センサは味の共通のものさし」と池崎社長は語る。

      池崎社長

 ――味覚センサで割り出したデータを販促材料として活用しているユーザーが増えている。
 池崎 ここ1、2年で特に多くなりました。つい最近でも、大手流通が通販サイトのワインコーナーで、味覚センサで証明したグラフを掲示しているという事例があります。酸味や苦味、渋味など、いろんなワインの味にどんな特徴があるのかを消費者にわかりやすく示したものです。別のコンビニエンスストアでは、店頭でワイン1本1本のラベルに表示して、味の傾向を伝えています。

 ――センサで示したデータとは分布図のようなものがあり、“酸味”や“苦味”など、その製品の味の特徴を位置で示し、他の商品との位置関係を把握することだが。
 池崎 センサ分析による自社の既存品や他社の競合品をポジショニング、マッピングすることで市場解析や新製品の位置づけの確認、繁盛店などターゲット商品との比較を可視化させます。
 例えば、好ましい味を目標とする商品(ベンチマーク)があるとします。そこに近づける位置関係を明確にさせます。官能評価に加え、センサの結果による客観的、視覚的表現が、バイヤーにプレゼンする際など有効な参考資料となります。
 ただし、味以外にも、香りやテクスチャーなど様々な項目があり、総合的な評価は人の評価になります。その人の評価が前提としてあれば、分布図の説明にも説得力が出ます。

 ――味を可視化することで、当事者は共通のものさしを得ることができた。
 池崎 目標とする味覚の明確化により、開発期間の短縮が可能となりました。また、センサを導入する前後で商品設計を変更し、改善したお客様もいらっしゃいます。最近のトピックスでは、大手スーパー向けのPB商品に活用していただいています。PB商品は入れ替わりが激しく、開発にスピードを要求されます。新商品の味の目標を明確化することで、開発工数を削減し、コストダウンという結果に繋げることができました。客観性の高い数値データまで提供できることも取引先に安心感を与え、プラスに働いていると評価をいただきました。

世界も認める“テクノロジー”

 ――存在感を示す味覚センサ。増加傾向にあるユーザーの数。セミナーや研究会活動――忙しい日々は今後も続きそうだ。
 池崎 アンリツから事業を引き継ぎ、独立してから10数年が経ちました。その間、事業が厳しい時期もありましたから、センサに期待を寄せていただくユーザーが増えることは非常に嬉しいことです。
 また、世界的グローバル企業の最大手も味覚センサをこのほど導入し、マーケティングに活かしているのは、嬉しく思うとともに、「これからが勝負なんだ」と自らを奮い立たせています。そのグローバル企業の考え方は完全な“ローカル戦略”です。世界的に展開している看板商品でも、各地域では好みが違うものがあるため、それを商品に反映させなければなりません。今までは感覚に頼らざるを得ず、現地の人材に任せるしかありませんでした。可視化できる正確なデータが得られないため、本部としてもフィードバックできず、どうすることもできない。なぜ売れているのか、あるいは、なぜ失敗したのかがわからないままでいました。

 ――世界的な企業だからこそ、開発やマーケティングにはシビアだ。
 池崎 これが味覚をデータとして可視化できると、ターゲット品との“ズレ”やそれぞれの地域で受け入れられる味覚の“標準”的なものが見えてきます。そのため工場で生産するときも“この商品はグラフのこの範囲で作ってほしい”と本部から明確な指示を出せるようになります。これが“仕様”となります。今までその都度感覚でやっていたこと、“Out of control”だったものが“Control”できるということになります。
 マーケティングで重要なのは仮説の検証です。ターゲット品が売れなかったならば、仮説は間違っていたのだと早い段階で気づくことができます。その段階で修正もできます。味覚センサで得たデータで重要なのは、失敗したものも残しておくことです。それがエビデンス(証明)となり、そこからの修正で、次の新商品の一歩が踏み出せるからです。

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2014年7月2日号掲載