農林水産技術会議事務局は「2013年農林水産研究成果10大トピックス」を選定した。
民間、大学、公立試験研究機関、独立行政法人研究機関などの農林水産研究成果のうち、内容が優れているとともに、社会的関心が高い成果を選出した。新規食品素材「米ゲル」や、米粉パンに適した水稲新品種「ゆめふわり」の育成など、多くの研究成果を得た。
○リンゴの摘果が楽にできるハサミを開発 −新しい3枚刃構造で手の負担を軽減−
農業・食品産業技術総合研究機構の生物系特定産業技術研究支援センターは、岩手県農業研究センター、サボテンと共同で肥大前のリンゴの実を間引く摘果作業を軽減できる専用ハサミを開発した。3枚刃構造で中央の刃を中心果に向けて挿入し、左右の刃が中央に向け閉じることで同時に複数の実を切断でき、手の負担軽減と作業速度のアップにつながると期待される。
○森林用ドロップネットと運用方法の開発 −山林の安全で効果的なニホンジカ密度低減に期待−
森林総合研究所は京都府農林水産技術センター、京都府森林保全課、京都府猟友会南丹支部猟友会と共同で、運搬設置が容易で作業者に安全な、ニホンジカ捕獲のための森林用ドロップネットを開発した。国立公園、畜舎や人家周辺など銃器やくくり罠が使えない場所で、少数からなる群れごと捕獲することが可能であり、繰り返し同じ場所で使用できる。ニホンジカ密度低減につながると期待される。
○新規食品素材「米ゲル」 −多彩な用途で小麦の代替と食品の低カロリー化に期待−
農業・食品産業技術総合研究機構の食品総合研究所は、高アミロース米を原料に、新規ゲル素材の製造法を開発した。柔らかいゼリータイプから高弾性のゴム状まで幅広い物性を持つ素材が調整できる。米粉に加工する必要がなく、低コストで生産できる。今後、小麦粉を使わない代替食品、油脂を低減した低カロリー食品などへの利用につながると期待される。
○定置型イチゴ収穫ロボットを開発 −大幅な省力化に期待−
農業・食品産業技術総合研究機構の生物系特定産業技術研究支援センターは、シブヤ精機、愛媛県農林水産研究所と共同で、イチゴの収穫作業の自動化に取り組み、定位置で自動収穫を行う定置型イチゴ収穫ロボットを開発した。循環式移動栽培装置と組み合わせたロボットシステムは、画像処理で収穫適期の果実のみを収穫する。判別装置の改良により昼間の収穫が可能となり、稼働時間の拡大を達成した。また、ロボットの低コスト化も実現した。大幅な省力化が期待される。
○コメの粒数を左右する遺伝子(TAWAWA1)の発見 −イネの収量アップへの期待が高まる−
東京大学、岡山大学、農業生物資源研究所は、イネの穂にできる粒(コメ)の数を決める遺伝子(TAWAWA1)を発見した。TAWAWA1遺伝子の働きが高まった変異体とコシヒカリを交配した系統では、株当たりの玄米重が増加した。今後、この遺伝子の働きを利用した品種の実用化が期待される。
○β-クリプトキサンチンの血中濃度が高い中高年女性は骨粗しょう症になりにくい −ミカンの骨粗しょう症発症予防効果に期待−
農業・食品産業技術総合研究機構の果樹研究所と浜松医科大学は、ウンシュウミカンに特徴的に多く含まれているカロテノイド色素であるβ-クリプトキサンチンの血中濃度が高い中高年女性は、低い人に比べて骨粗しょう症の発症率がおよそ92%低いことを発見した。ミカンの骨粗しょう症発症予防につながることが期待される。
○高CO2濃度によるコメの増収効果は高温条件下で低下 −気候の違う2地点のFACE(開放系大気二酸化炭素増加)実験により確認−
農業環境技術研究所、太陽計器、秋田県農業試験場、秋田県立大学、農業・食品産業技術総合研究機構の東北農業研究センター、岩手大学、東北大学大学院農学研究科は、従来考えられていた大気CO2濃度の上昇によるコメの増収が、温暖化が進行した際には期待されるほど大きくならない可能性を示した。
○米粉パンに適した水稲新品種「ゆめふわり」を育成 −「やわらかい」、「しっとり」、「もっちり」な米粉パンに−
農業・食品産業技術総合研究機構の東北農業研究センターは、米粉専用品種「ゆめふわり」を育成した。「ゆめふわり」の米粉は、「あきたこまち」と比べて損傷でん粉の割合が低く、粒径が小さい、パンに適した米粉となる。2014年に米粉パンの販売が計画されており、今後の米粉需要拡大に貢献すると期待される。
○高設イチゴ栽培を省力化する「無育苗栽培方法」を確立 −育苗期間の大幅な短縮と育苗労力の軽減を実現−
島根県農業技術センターは高設ベッド栽培による促成イチゴ作型で収穫時期と育苗作業時期の重なりを回避し、省力化を可能とする「無育苗栽培方法」を開発した。この技術により育苗にかかる労力の大幅な減少が達成され、作業時間、育苗経費の大幅な削減による経営の安定化につながることが期待される。
○コメ・コムギ3カ月前に豊凶予測 −世界の2割の栽培面積で−
農業環境技術研究所と海洋研究開発機構は、コメ・コムギの豊凶を世界の栽培面積の約2割について、収穫3カ月前の短期予測(季節予測)に基づいて予測できることを示した。全世界を対象とする豊凶の予測技術開発は世界で初めて。