自然解凍が人手不足で高評価、揚げ調理も「大量調理」で需要戻る
昭和冷凍食品 代表取締役社長 佐藤誠氏
昭和産業グループの昭和冷凍食品（新潟市）は昭和産業の知見と経営資源を生かして、製粉加工品に特化し、国内生産の安心感も強みに打ち出している。「ニッチ（市場のすき間）をめざし、独自路線を歩む」（佐藤社長）というのが基本的スタンス。佐藤氏は同社社長が今回２度目。「現場の生産性改善に対する取り組みの深さを強く感じる」と８年前との大きな違いを指摘する。
佐藤社長
――昨年４月、２度目の社長に返り咲いたが。
佐藤 前回は2005〜2008年まで社長を務め、８年ぶりに戻ってきた。この間、生産、販売はもちろん、食品を取り巻く社会環境や消費者志向なども大きく変化した。しかし、変わらないものもある。そこで私は（昭和冷凍食品で得た）過去の経験を活かせるところは大いに生かし、変えるべきところは変えようと取り組んだ。
――前12月期の概況は。
佐藤 第25期は�．ぅ鵐好肇▲戞璽�リー向け冷凍生地、�⇔免痢Ε灰鵐咼法Χ般獲儻�け加熱済み冷凍食品ともに２％の増収で増益を確保した。冷凍生地はインストアベーカリー向けを中心に順調で、新規客も増えた。冷凍食品はたこ焼５％増、プチケーキ８％増と新潟本社工場で生産する製品が好調で、特に量販・コンビニを中心とする新規需要を取り込んだ。たこ焼の中でも“丸たこ焼”が増収を支えた。
評価が高いプチケーキ
――製粉加工品にカテゴリーを特化しており、国内工場のみと事業展開の上では制限となるが。
佐藤 品質管理レベルが高く、安心安全対応に優れた国内工場で生産していることと併せ、ニーズを先取りした商品提案も市場から評価されている。商品の中では「プチケーキ」の独自性と自然解凍の簡便性、バリエーションの豊富さと、メニューアレンジ対応性が高く評価されており、新規採用が共販流通組織（業務用卸店グループ）などに広がった。当社の柱商品の１つであるワンタン・ラビオリは一昨年の大口スポット需要の反動減があり、若干の減収となったが、それを除けば基調としては堅調だった。
――新潟本社工場にホットケーキ専用ラインを一昨年導入したが。
佐藤 前期は２年目だったが、大幅に伸びた。カフェチェーンなどの採用が増えてきた。親会社昭和産業のホットケーキに対する知見も評価されている。昭和産業はホットケーキでシェアナンバーワンの実績がある。
――その他、昭和冷食が得意とする和風スナック類は。
佐藤 たい焼、今川焼、蒸しケーキ、フライ・ドーナツ等はいずれも委託生産しているが、これらの商品は採算を重視した販売により、若干の減収となった。これに対し自社生産品は生産、販売ともに５％増と好調だった。
――前期の増益を支えたものは。
佐藤 自社工場の生産量が増え、２年前から自主活動を継続している生産性向上活動の効果もあり、生産効率が改善し、増益となった。
ニッチ市場を攻める、懸念材料はコスト高
――今12月期の計画は。
佐藤 売上げ２％増で、利益は前期並を計画している。特に自社工場生産品を中心に、顧客との“取り組み型”で事業を掘り下げる。当社は市場ニーズを先取りした商品提案を進めているが、自然解凍対応のプチケーキ、ホットケーキ、たい焼、今川焼などが人手不足を背景に評価を得ている。一方で揚げ調理のラビオリ・ワンタンも市場に浸透、定着している。油調は一般的には敬遠され気味だったが、実は業務用の現場で大量調理する際、フライやスチコン調理はむしろ受け入れやすいという評価が戻ってきた。当社商品は市場のニッチな部分をねらって提案している。懸念材料は原料相場とエネルギーコスト。特にたこ焼主原料のたこの高騰を心配している。今後も他社にない独自製品を国内生産する方向は変えない。
――昭和冷凍食品の強みは。
佐藤 昭和産業グループのシナジーを活かせること。販売はもちろん、昭和産業の原料調達網も活用し、加工技術の深耕を図っている。また、昭和産業が持つ製粉、油脂のこだわりと加工技術水準の高さがある。新潟本社工場を使った国内生産、一昨年取得したＦＳＳＣ22000認証に基づく安全安心も打ち出している。
――安全安心、生産現場の取り組みについて。
佐藤 日本冷凍食品協会の新基準認定工場を今年中にめざす。フードディフェンス強化のため食品防御責任者と食品防御委員会を設置した。全員参加でフードディフェンス勉強会を昨年開催した。「食品安全方針」も策定した。生産性アップのためにはトヨタ生産システムによる改善活動に2014年11月から取り組んだが、昨年からは自主活動として生産効率化を進めている。外部の専門家の指導を離れると活動は停滞するか鈍化すると言われているが、当社はさらにステップアップしており、専門家からも「ここまで自主活動を続けられるのは珍しい」と評価されている。それだけ従業員の意識が変わったと私も思っている。
（佐藤社長の略歴）1980年（昭和56年）昭和産業入社。製粉工場勤務を経て千葉県市川市の総合研究所で製粉技術・開発、プレミックスの利用促進などを研究。昭和冷凍食品が分社・独立する2002 年（平成14年）８月、大学の研究室の先輩であり独立会社の初代社長となる蟻馬隆夫氏の誘いで同社取締役生産統括部長として３年。蟻馬氏の辞任に伴い2005年６月から代表取締役社長を約３年。2008年３月から、コンビニ向け冷凍パン生地などを手掛けるグループ会社、スィングベーカリーの社長を４年。昭和産業に戻り、船橋工場長を２年、さらに商品開発センター所長を２年。2016年４月１日付で８年ぶりに昭和冷凍食品の社長に返り咲いた。「強い機能をより強く」と業績改善に取り組む。1956年（昭和32年）５月秋田生まれ。東京大学農学部農芸化学学科卒。60歳。