「米粉」使った麺工場完成、冷凍も生も乾燥も
顧客の要求には100％応える、必要な投資はすぐ実行
�蠡膤秣爾△�たこまち生産者協会 代表取締役社長 涌井徹氏
秋田県大潟村の農家を組織化し、自らコメの販路拡大を図る「大潟村あきたこまち生産者協会」。コメの消費量は明らかに減り続けているが「コメを原料とする加工食品はこれから大きく伸びる」と涌井代表。「ヤミ米」業者として世間から叩かれた苦い経験と修羅場をくぐってきた打たれ強さを武器として、いま「農業とコメはビッグチャンス」と力強く食品業界関係者に訴える。
「秋田県大潟村の農家のコメを産直で販売し、ピーク時には年間58億円の商売に拡大したが、その後、うまくいかないところは切り捨てて、現在の年商は約37億円。もう少し減らすつもりだが、２年後には90億円に再び拡大し、その後の拡大も見えている」
「日本は100万ha、500万ｔものコメの減産を進める一方で、年間38億円もの広告宣伝費をかけて国産食料品の消費拡大を促す“フードアクションニッポン”運動などを実施しているが、ゴルフの石川遼選手がたまごかけご飯を宣伝しても、これ以上のコメの消費は増えない。一方で日本は小麦粉などを3000万ｔ輸入し、その反面、1000万ｔも捨てている」
「日本の農家の60％が65歳以上の高齢者であり、10年たてば高齢者は農業をやめる。しかも日本の農業は兼業農家が大半であり、10ａ（１反）当たりの収入は30万円にすぎない。これでは日本の農業の未来が開けない。５年、10年で農家はみな農業から離れていくだろう」
「日本の農業にとって中途半端な展開では現状から打破できない。行き着くところまで進んで、これではだめだ、と気がついたところで、やっと改善され、農業が変わるんだろうと思う」
「当社は昨年秋のリーマンショックを機に、営業員には“コメを売るな”と指示している。営業員は常に“売れない理由”を探しているもの。そこでコメは売らない代わりに“顧客の声を聞いて来い”と求めた。また、コメは持たせなかったが、モチ、おはぎ、お握り、大福を持たせて外に出した。コメは売れないが、すぐにおはぎは月1000個の注文になった。それがその後、月間30万個の売上げに拡大している。ＪＲ北浦和駅（埼玉）に『こまちあん大潟』という売場を設けており、ＪＲ吉祥寺（東京）にも近日中にオープンする。直売店は20〜30カ所に増やす。駅構内への出店は宣伝効果が大きく、昨年末は月間50万個ペースだったが、（直売店の扱いは）３月までに100万個に広がった」
「コメは売れないが、このようにおはぎなどのコメ加工品が売れるので、4000〜5000万円を投じて冷凍庫やおはぎ製造設備などを増強している。コメ（精米）に次ぐ商品をつくらないといけない。日本は500万ｔもコメを減産しているが、でん粉質の食べ物は好む。ご飯は食べなくなったが、小麦粉を使ったパンや麺、菓子、デザートなどはよく食べている」
「コメの減産政策として、既存のコメ以外のものの生産が奨励されている。おにぎり、おはぎ、せんべい類は“既存のコメ”製品。では何が望まれるか。米粉を使ったパン、麺、ビスケット、ロールケーキなどがそれ、という。しかし誰も本気で作ろうとするものではない」
「当社では米粉を使った“米めん”を（乾麺で）開発し、今春から営業を開始した。普及宣伝のため全国で500名規模のバイヤーに会って説明したら、多くのバイヤーから“茹で麺状態で持ってこい”と要望が強かった。そこで茹で麺設備をすぐ導入して製品にしたら、今度は“ミートソースをかけてこい”という。そこで調理麺の製造設備をすぐ入れて対応した。顧客の声は必ず、全て聞く」
「米粉を使った“白めん”の状態では優位性が発揮できない。白いことが麺の良さではない。価格優位性も出せない。利便性も小麦粉麺に比べ弱い。そこで工夫を重ねた結果、発芽玄米で麺を手掛けたら、これが成功だった。発芽玄米を使った“米めん”は、紹介した学校給食、生協、ＣＶＳ、外食、スーパー惣菜をはじめ、その100％が“導入したい”と強く求めている。しかしその全量をカバーするだけの原料米がないので、農水省に相談し、どうやら調達できる見通しがついた」
事業構想を精力的に語る涌井氏
２億円投じ「米めん」工場を竣工、増強も計画、宝の山掘り下げる
「発芽玄米を使った“米めん”の工場は２億円を投じて建設し、２日に完成した。これは米めんを月間500万食、年間12万俵のコメを原料に使う工場を想定した。冷凍麺もショートパスタも、ロングパスタも生産する。当初は月間300万食をめざす。年間で3600万食、１食約50円と換算してこれだけで年間約18億円。これで（既存事業の売上げと合わせて）60億円にはなる。さらに倍の月間生産量になれば、来年はもっと伸びる。仮に“ホラ話”と受け止められようと、生産設備に２億円かけて本格的に取り組みを始めたことは事実」
「“米めん”の最終製品を仕上げている段階で、乾麺を調理現場で茹でて食べる分には問題がないが、ＣＶＳベンダー向けのように、調理してから時間を経て食べる食シーンではコシが抜けることがわかった。そこである工夫を加えたところ、問題を解決した。これでどんな業態からのリクエストにも乾麺、チルド麺、冷凍生麺、冷凍茹で麺、生麺の状態で、あるいはスパゲティ、フェットチーネなどの各種パスタ、ビーフン、さらには黒米入り、赤米入り、抹茶入り、かぼちゃ入りなど様々な提案ができる」
「当初は月間100万食の生産設備３台で稼働開始するが、設備増強も計画している。スペースにも問題はない。米粉加工品はいまがチャンス。日本の農地は減産で500万ｔもコメを減らしているが、ちゃんとつくれば10ａ（１反）当たり14〜15俵（＝900kg）のコメはできる。コメが余ったらその利用方法を考えればいい。コメとして食べてもらうのか、加工品として提案するのか。そこをちゃんとつかまえられれば、コメビジネスは宝の山だ。いずれはコメ加工品の輸出も考えている」
「新たにスイスの食品機械会社に依頼して米粉の製粉機も開発している。原料米は仲間の農家が作ってくれる。農地や農家の事情に合わせたコメ作りではなく、これからは消費に合わせたコメ作りを進める。世界は食料不足が深刻化している。その一方で、世界の農地は砂漠化の進行により年々減少している。世界では食料不足が進んでいるのに、日本ではコメ離れが進み、農家はコメ作りだけでは生きられなくなっている。まさに日本の農業は壊滅的な状態になっているが、だからこそ日本の農業、コメビジネスはチャンス。この機会を生かすため、多収性食用米のことも考えている」
「今回完成した“米めん”は新しい食文化の発信になる。既に大手企業がこのプロジェクトに注目し、タイアップを持ちかけられたこともある。コメビジネスにとっても、日本の農業にとってもチャンス到来だ。仮に来年60億円に達しなくても、経過を待っていれば必ず実現するだろう。食品業界の皆さんのご支援とご協力をお願いしたい。是非、一度味わって欲しい」
【涌井氏の略歴】 1948年新潟県十日町生まれ。県立十日町高校から県立農業教育センターを卒業。1970年、21歳の時、家族とともに秋田県大潟村に移植。87年大潟村あきたこまち生産者協会を設立。米の個人向け販売を続け、その後、販路は外食、業務用、大手スーパーなどにも広がっている。農業の新しいビジネスモデルづくりに精力的に取り組む。経済情報番組や新聞、雑誌等からも注目されている。