日欧の機械見極め、アジアを攻略
マスダック 代表取締役社長 増田 文治氏
(日本製パン製菓機械工業会 専務理事)

 全自動どら焼ラインの完成度の高さに、1度見た人なら誰もが魅了されるはず。画期的な技術革新が難しくなった現在、よりシンプルに、より安全に、より衛生的に――細かな改良がユーザーの心をつかむ。モバックショウ開催間近、増田社長は同展実行委員長を務める。

      増田社長

 ――菓子の直焼き機や充填機、オーブンなどを長年手がけているが、最近の機械業界やユーザーの動向は?
 増田 かつてはユーザーにも余裕がありました。製菓メーカーに限らず、水産加工品や食肉を扱うメーカーでも、菓子の成型技術を使って、画期的な新製品や面白い発想を仕掛けるなど盛り上がっていましたが、厳しい経済環境になり、試行錯誤や失敗が許されなくなってしまいました。

 ――以前のように、わずかな可能性に挑戦するメーカーが減ってしまったようだが、それに対し御社はどう向き合う?
 増田 現在は、特化している和洋菓子業界で水平的に展開できるように、世界のマーケットを視野に入れています。例えば、アジア諸国の生活レベルが上がり、日本の菓子に寄せる関心が増え続けています。ここ数年、中国では北海道を巡るツアーが人気となっており、中国人の観光客で賑わっています。彼らはお土産に北海道の銘菓をたくさん購入しますが、帰国後でも日本の菓子をいつでも食べたいという気持ちに溢れています。

 ――アジアが新しい市場に成長している。
 増田 日本市場と違うのは、流通の仕組みや機械に対しての設備投資の考え方、特許を重要視しない傾向も見受けられる……ということです。

 ――コピーを恐れて中国に進出できない機械メーカーの話も聞く。
 増田 もちろん慎重にならなければいけません。しかし、マーケットのあるところにユーザーを創造していかないと企業は存続できません。困難はありますが挑戦しなければいけません。

 ――成功している?
 増田 中国は日本に関心を持つ一方で、欧州志向もあります。例えば、日本でヒットした菓子を“(中国でも)やってみたい”と相談を受けるケースがあります。技術交流会でレクチャーして、いよいよ機械化を進めようとしますが、その時点で、すでに彼らは我々の説明資料を基にして欧州の機械メーカーとも接触しています。ほとんどのケースで、我々の見積もりに対して30〜40%の値引き要請があります。“欧州製は安く仕上げている”、“欧州製は多工程ができている”というように。それに加えて、欧州の機械メーカーはプレゼンが非常に上手です。

 ――もともとある欧州憧憬も後押しとなっているわけだ。そもそも、どうして欧州製は安く仕上がる?
 増田 菓子を作る繊細さに関しては、日本は欧州に比べて重要視しています。ある菓子を作るのに、私たちでは10工程必要なものを、欧州では6工程で済ませます。余計なことはしない、だから安く仕上げてきます。
 しかし、中国の菓子メーカーは欧州製を導入して、いざ稼働してみると“イメージしていたものと違う”として、再度私たちに技術説明を求めてくるケースも多いのです。
 
 ――そのような中国のユーザーを手放すわけにはいかない。欧州の話題になったが、増田社長は先日欧州に行っていたようだが。
 増田 オランダに「マスダックヨーロッパ」を立ち上げていますが、欧州の設計者と日本の設計者がコラボし、“何かできないか”とプロジェクトを進めています。工程の差はありますが、欧州の作り方はやはりシンプル、部品点数も少なく、衛生的にも優れています。先ほども指摘したように、日本製はステンレス加工でも繊細な工程をたどり、手間をかけます。一方、欧州はシンプルにまとめてきます。

 ――日本製と欧州製の違いをまた見受けられる。
 増田 長い歴史がそうさせています。しかし、このままではいけません。日本でも安価でシンプル、特に衛生面を重要視する傾向がますます加速しています。この要請に対応するには、日本の技術者だけでは、長い歴史に染まっているためになかなか抜け出せません。そこで両国の技術者が練ったものを何度も繰り返していけば、変えていくことができるはずです。

 ――完成が楽しみだ。2月のモバックショウにはどんな機種を出品?
 増田 2400個/時間タイプの全自動どら焼機に包装機を連結した、生産性の高いラインを出品します。使いやすさと安全性をより充実させています。焼成機のデザインやバーナー類の技術をマスダックヨーロッパと共同開発した新型です。

 ――今後の展開は?
 増田 アジアで“売る体制”を築きたいですね。欧州に様々な国があり、いろいろな考え方があるにもかかわらず、マスダックヨーロッパはビジネスに長けているので、任せられます。しかし、中国は人と人とのつながりを重視しており、中国全土を1社に絞って任せると2割はつかんでも、残り8割からは敬遠されてしまう傾向があります。早急な支店の設立というのは難しいので、当面は営業マンを増やして、地道に展開していくのも手段だと思います。しかし、メンテナンスの対応を視野に入れた体制も検討していかなければならないと考えています。

 ――中国に対しては慎重に、しかし、積極的に動き出さなければ始まらない。
 増田 中国に対しての誤解もありました。インスタントラーメンや飲料、菓子類を手がける大手食品メーカーと15年前に取り引きがありましたが、その際オーブンライン3基を一気に導入しました。中国はそういう傾向にあるのかと思ったのですが、後々にわかったことですが、その企業のケースだけが例外で、ほとんどのメーカーが菓子に対する設備投資は非常に慎重に動いています。どら焼機ならば、始めから全自動ラインを導入せずに、始めは一番小さなもので皮だけを作る機械、それがうまくいけば1時間に800個できる機械、次はその倍の処理能力を持つ機械というように徐々に投資していきます。インスタントラーメンやペットボトルと違って、菓子への投資はなかなか難しいようです。

モバックショウ、開催迫る

 ――増田社長はモバックショウの実行委員長を務めているが、その意気込みを。
 増田 製パン・製菓機械業界として、またユーザーである製パン・製菓業界自体も今後どの方向に進むべきかを真剣に考えなければなりません。現状のまま考えていても成長するには限界がある、そこで海外に目を向ける必要が出てくる。その答えの1つが成長を続けているアジアにあると思います。

 ――新規出展社が増えたのもうれしい話題だ。
 増田 プライベートフェアを長年積極的に展開していた企業も、新しい市場の創造をめざすモバックショウの主旨に関心を示し、出展に意欲的になってくれたことは大変うれしいことです。また、精米メーカーの出展も見所の1つです。米粉メーカーはありましたが、“お米”そのものは初です。モバックショウも着々と構造変化しています。これは喜ばしいことです。

 ――変化と言えば、御社としては?
 増田 当社もここ10年ほどで国際的な感覚に敏感になりました。社員の多くがパスポートを所有し、外国語も積極的に習う姿勢も目立つようになりました。海外に対して、身構えるのではなく、日常生活の延長線上に位置づけていれば、何かあった際すぐに対応できる――そのような社内環境が理想だと思います。

フードエンジニアリングタイムス 2011年1月5日号掲載