タイの冷食工場シリーズ��
欧米向け冷凍寿司事業順調、ＫＵＥ
極洋とタイの水産企業ユニオンフローズンプロダクツ（ＵＦＰ）の合弁企業Ｋ＆Ｕエンタープライズ（＝ＫＵＥ、松本哲生社長）は安定した運営を続けている。同社は冷凍の寿司種といわゆるシャリ付きの冷凍寿司を生産している。現在タイで冷凍寿司を生産している同業他社はかなり淘汰されている。生産量3000ｔほどの寿司種は七割が日本向け。500ｔほどの冷凍寿司はほとんどが欧米向けに販売している。
松本社長(右)と山口常務
09年度には冷凍寿司の販売を倍増させた同社だが、昨年度（2010年４月〜11年３月）は前年実績の500ｔを若干下回る量にとどまった。
欧米向け冷凍寿司の需要そのものは安定している。冷凍寿司の販売先比率は北米とＥＵがほぼ50％ずつで、前年に比べ大きな変化はなかった。最近はユーロが強めに盛り返したこともあり、ＥＵ向けの数量は若干だが伸びている。
「リーマンショック以降、米国市場はややスローになったものの、カナダの量販店に販売が決まるなど、北米向けはそれほど落ち込んではいない」（同社）。
ただ、冷凍寿司、特に外食向けは定期的なリニューアルによって変化をつけ、飽きさせない事が重要になる。前期は米国向けのリニューアル時期が原料価格などの問題もあってずれこんだため、これが冷凍寿司トータルで若干前年実績を下回る要因になったという。今期は再び500ｔを目指す。
冷凍寿司は大学のカフェテリアなどのチャネルにも広がっている。米国の場合は外食とカフェテリアが２本柱となっており、どちらかの市場が落ち込んでも比較的安定するようリスク分散ができているのが前期の安定した数字につながっている。
冷凍寿司のほとんどは欧米向けの需要
ＥＵはドイツを中心にオランダ、フランス、イタリアが主な市場となっており、最近はスペインにも入るようになった。ポーランドにも定着してきた。
イギリスにも出荷しているが、イギリスの冷凍寿司はチルド流通がほとんどで、冷凍の量販店における市場は５％ほどと、それほど大きくはない。
頭が痛いのが原料の高騰。サーモントラウト、えびなどの寿司トッピングが軒並み高騰し、今も値上がり基調にある。昨年は値上げや入数で調整するケースもあった。
ただ、欧米は日本ほど値上げに対する抵抗が強くない。
「今は高いので在庫を持っているなら待ったほうがいい」と持ちかけても、必要な客は買う。最近はバーツに対してユーロが強くなってきており、好景気が継続するドイツは購買意欲も旺盛で、冷凍寿司のＥＵ向け販売も盛り返しているという。
一方、寿司種は寿司えび、甘えび、トラウトサーモン、いかなど。アイテムそのものは欧米と日本で大きな違いはないが、販売動向は大きく違う。
欧米向けで最も多いのは寿司えび、次いで甘えび。ＥＵではあまり生食を好まないが、甘えびだけは生食が普及している。意外にも最近はトラウトやサーモンもよく出るようになった。ＥＵにはノルウェーサーモンがあるので、タイから輸出する余地は小さいようだが、「ドリップが出ないように工夫して品質を高めたら安定した数量になりつつある」（同社）という。
ＵＦＰの本社と工場、５階建ての工場はタイでも珍しい
日本向けは今年になってやむなくえび関係を中心とした値上げの要請をすることになったが、なかなか通らないのが実情。コストダウンのため昨年からワーカーの効率的な運用に取り組んでいる。
「日本向け３本柱のえび、いか、サーモンの生産を安定させることで、1200人のワーカーでもできるようにし、コストダウンに取り組んでいる。昨年はワーカーを少し減らした。以前は1400〜1500人いたこともあったが、一時期は1000〜1100人に絞り込んで効率運用に努めた」（同社）。
冷凍寿司や寿司種の生産は非常に手作業が多い。機械化すれば逆に歩留まりが落ちることが多く簡単にはいかない。しかもワーカーのスキルが必要とされる作業だ。一方でワーカー不足と賃金上昇は顕著な流れとなっており、同社でも雇用の継続は大きなテーマとなっている。
今期の生産計画は前年をやや上回る3500tで、うち日本向け2500t、冷凍寿司500tの計画。
今後は生マグロのスライスや、回転寿司店で人気上位に入るつぶ貝などトッピングの種類を増やすことも考えている。すでにつぶ貝は原料の手当てができている。生マグロはプーケットなどで水揚げされるため、それをチルド状態で搬入する加工テストも継続している。他国産地から搬入する方法なども検討している。
日本の震災による生産面での影響はほとんどなかった。醤油、わさび、しょうがはチェンマイ産、米はタイで契約栽培、えびはタイ、さばはノルウェーと、日本の食材はほとんど使っていない。ただ、日本食のイメージがあるため、顧客の問い合わせには直ちに対応できるように体制を整えているという。