過熱水蒸気加工技術を活用、食材販売に参入
炊飯機器メーカーのエースシステム��（大阪府和泉市、佐古圭弘社長）は、特許技術の過熱水蒸気加工技術を野菜などに活用し、食材販売に乗り出した。湯せん、蒸し調理に比べて高い栄養成分の残存を確認し、食感や色味の劣化が少なく、真空パックすると冷蔵保管で平均１カ月持つ。今年から在宅介護従事者向けに食材キットをテスト販売しており、来年から本格展開する。
100℃超の過熱水蒸気で加工
過熱水蒸気自体は珍しくないが、同社が野菜加工用に開発した「ベジタブルスチームクッカー」（ＶＳＣ）は、水蒸気の温度を、100℃を少し上回る程度に抑えているのが他社製品との違い。そのため加熱しても食材が焦げない。
１ｇの水の温度を１℃上昇させるのに必要な熱量が１カロリー。100℃にするためには100カロリーが必要だが、ＶＳＣは100℃を少し上回る温度で539カロリーの凝縮熱を発生させ、食品を直接加熱する。凝縮熱は食品の表面でのみ起きるため、食品以外への熱放出が少ない。これにより高効率の熱伝導を実現する。栄養成分の酸化と野菜色素の流出を防ぎ、食材の水分を保持してジューシーな仕上がりになるという。湯せんのように食品同士の物理的な衝突が少ないため、煮崩れしにくいメリットもある。
キャベツは70秒、ブロッコリーなら80秒、にんじん、玉ねぎ、じゃがいもは７分程度の短時間で加工できる。餃子、鶏肉、卵、魚の切り身にも対応する。
在宅介護の現場では、ホームヘルパーが要介護者の食事に１時間割いているのが現状だが、温めるだけ、またはサラダのように開封するだけの食材キットを使えば大幅に調理時間が短縮できると見て、今年からテスト販売している。大阪府立大学と連携し、利用者１人ひとりに最適な栄養バランスや、症状に合わせた食材の組み合わせ・メニューが提供できるのも強み。
廃棄ロス削減で農家の収入1.5倍に
食材販売には、農家の収入アップという目的もある。
佐古社長によると、農家は過剰生産や規格外などを理由に生産物の30％を廃棄しており、これを農家が自ら加工して納品することで収入が1.5倍になると試算している。「夫婦２人で農業をする場合、年収1000万円がギリギリのライン。廃棄予定の野菜を加工して“加工賃”が得られるようになれば、収入は５割上がる。農協や、農協に加入していない生産者にＶＳＣを導入してもらうことを想定しているが、手応えは十分」（佐古社長）と期待している。
一般家庭にキット食材をテスト
一般家庭にもキット食材をテストしている。１週間分の食材と、同社が得意とする米飯をセットにした。１食当たり600〜800円。製造委託先の工場から各地に用意した業務用冷蔵庫に配送しておけば、後は「ウーバーイーツ」や「出前館」の配達員に自宅まで届けてもらう。コロナの影響でスケジュールがずれ込んだが、原料から加工、宅配までの体制は整っている。
炊飯にも対応した「マルチスチームクッカー」
佐古社長は「野菜市場は３兆円と言われており、そのうち１兆円が廃棄されている。そこに商機がある」と見ている。
ＶＳＣは奥行2674mm×幅1265mm×高さ1422mm。蒸気使用量は１時間当たり40kg。定価800万円。炊飯にも対応した「マルチスチームクッカー」は2640mm×1580m×1620mmで、蒸気使用量は毎時110kg。定価2000万円。
今年10月７〜９日、都内で開催された冷食ＪＡＰＡＮを含むＦＯＯＤ展に出展。「昨年はサンプルのみの出展だったが、今年は実機を持ち込んでデモンストレーションした。来場者数は昨年の３分の１だったのに、名刺交換した数は倍だった」とニーズの高さを実感している。