冷凍食品業界で製品価格の捉え方が微妙に分かれ、論議を呼んでいる。
業界大手の味の素冷凍食品が先行し、品質アップという付加価値を伴った価格改定(引き上げ)を年明け早々宣言した。が、いまのところ同様の動きはなく、むしろ市場からは値頃感、安さに対するニーズが次第に強くなっているため、多くのメーカーは規格の見直し、容量減量・個数調整などの措置を含めて、実質的な値下げに向けて模索を続けている。
今月3日までに春の新製品を発表した有力冷凍食品メーカーの中で、価格改定を表明したところは味の素冷食の市販用と加ト吉の一部業務用だけ。
味の素冷凍食品はあえて価格引き上げに挑戦する。
「値下げの議論が盛んに行なわれていることは承知している」(進藤大二社長)が、それでも価格引き上げに踏み切るのは「いまの価格構造では前に進まない」と判断したから。進藤社長によれば「安全安心、表示偽装など何か問題が発生すると、冷凍食品が真っ先にやり玉に挙げられ、そのたびに信頼を失い、需要を落とす。全ての根源は冷凍食品が安すぎるからだ」と捉えた。
味の素の主力商品「ギョーザ」、
品質を高め価格改定も図る
味の素冷食の分析によれば、チルド、常温、惣菜、手づくりと比べても冷凍食品の実勢価格は安い。業界最大アイテムと位置づけられる同社の「ギョーザ」ですら、実勢ユニットプライスはグラム当たり0.69円。仮に、同社が今回打ち出した“バリュークリエイト作戦”で、商品価値アップと価格アップも果たせば、ユニットプライスは15%アップするが「それでもまだ他の業態と比べれば価格差が残る」という。
冷凍食品が安すぎるため「本当にこの安さで品質に問題はないのか、と消費者に不安を植えつけてしまった」(同社)。安全安心問題が相次いだ昨年はこの傾向が特に顕著になった。直面する冷凍食品の需要回復を実現する上でも「価格引き上げは必要」と訴える。
前段階として味の素冷食は05年当時から冷凍食品の価格帯アップ策の検討を重ねてきた。その第一弾としてギョーザの皮、具、全ての原料、調理特性、表示方法に至るポイントを1つずつ見直すことで“商品価値”を高め、価値アップと引き換えに実勢価格を40円アップさせ、一袋290円台に引き上げることに成功した。
この経験と実績をヨコ展開する考えだったが、原料高と安全安心問題が優先課題として台頭したため、事実上延期となっていた。
昨年1月末に表面化した「天洋食品事件」以来、問題が相次ぎ、業界始まって以来最大の低迷で、しかも長引いているこの時期に価格引き上げに挑むことになるが、同社は逆に「いましかない、いまこそあえて価格帯アップに挑む好機」と捉えた。
天洋事件後、同社が講じた「新・安心品質」を問屋、売場、ユーザーが高く評価していることも価格引き上げ策を後押ししている。風の流れに逆らう挑戦であるのは間違いないが、冷凍食品を元気にしたいという熱い思いで同社はこの新施策に取り組む。
“V字型回復”を具現化するため、商品の価値をさらに高め、価格もアップを図る「バリュークリエイト」(VC)作戦を展開することにより「冷凍食品売場に元気を取り戻したい」と進藤社長はねらいを語る。
第1弾として市販用冷凍ギョーザ、エビシューマイなど主力8品について指定農場の原料比を上げたり、えび比率をアップ、一部商品では若干の容量減などを行なうとともに、販売価格アップを図る。8品のユニットプライス平均で15%程度の売価引き上げをめざす。
併せて強力な広告宣伝、HP、売場店頭活動や情報開示などを通じ、市販用、業務用とも顧客とのコミュニケーションを深める。
“VC作戦”に含まれる「ギョーザ」はキャベツを国産100%とし、指定農場で育てた豚・鶏肉の処理方法を変更。包み方や蒸し加熱コントロールも改善し、皮はパリッと、中具はよりジューシーに仕上げた。価格を改定する。
VCの「プリプリのエビシューマイ」は指定農場のバナメイえびを23%増量し“プリプリ”を商品名に加える。1個当たり1g減、12個入りで12g減の156gに変える。
VCの「野菜たっぷり中華丼の具」は国産白菜・キャベツのほか、指定養殖のバナメイえびに今回から切り換える。容量を変える。
加ト吉は「ジェイティフーズ」ブランドの業務用冷食で昨年秋に価格引き上げを見送ったものがあるため「09年春に業務用の一部製品で値上げする」(同社)。JTフーズブランドの市販用は春から加ト吉ブランドに統合し、JTの業務用も秋には加ト吉に統合する。
ニチレイフーズも基本的には「価格引き上げ」の方向。価格と価値訴求しながら「大幅価格改定を行なう予定」(池田泰弘執行役員商品本部長)と明言する。
一部原料が昨年末から下落傾向にあるが「中長期では上がる」(池田本部長)と読み、「当社は“適正価格”で提供する。適正価格とは安全安心、品質、おいしさ、オペレーションのトータルで見た“値ごろ感”のこと」と受け止める。
基幹カテゴリーの基盤強化も進める。一昨年、北海道森町にコロッケの新工場を作った結果、コロッケは08年度15%増となった。今年はチキンでタイの大手鶏肉会社とフルインテグレードの仕組みを構築する。
家庭用では米飯を強化する。米飯の消費は増えておりチャンス。家庭でできないメニューを提供する。
基幹商品はさらに磨き上げる。今期は新商品を絞り込み、リニューアルを増やした。「新規カテゴリー開発と新商品育成を行なうには大変厳しい環境。それに対し、基幹商品は安定しており、磨き上げが重要。原料調達、ローコスト、おいしさ、ニーズの汲み上げの連鎖が商品力となる」(池田氏)とする。
値頃感のニーズに対し、ニチレイフーズは市販用売れ筋の冷凍「焼おにぎり」で2個増量セールを4〜5月に実施し、実質的な値下げで需要の刺激喚起を図る。
価格対応について態度を決めていないメーカーも少なくない。
「市場からは値下げ要求が強くなっているが、原料安は一時的なものであり、安易に値下げには踏み切れない」と躊躇するところが多いが「値上げにしろ値下げにしろ、対応するには時間不足」というところ、中には「味の素冷食ほど当社事業は体力がない」ことを見送りの理由に挙げるところもある。
流通、末端も様々な捉え方があり、価格にどう向き合うべきか、業界でも迷いが感じられる。
「市販用冷食は売上げを戻さなければならない。『なぜ今このタイミングで値上げ?』という声もあるが、これだけおいしくなった、ということをメーカー、卸が一緒になって提案しなければならない」と日本アクセスの高橋宏典低温商品部長は強調し、味の素冷食の施策を評価する。
「価格が上がってもおいしいさ、安全担保のための改良、柱作りは必要。そうしないと業界は挽回できない。売れ筋上位品をさらにストロング商品にするという考え方は業界にとって非常にいいこと。我々もバイヤー、消費者に納得してもらう売場を提案する必要がある」と高橋部長は受け止める。
これに対し、あるスーパーのバイヤーは「安全安心、おいしさにかかるコストが製品価格に転嫁されるのはやむを得ないが、メーカーも販売側もきちんと消費者に伝える努力が必要」という。
さらに他店のバイヤーは「前回は値上げの雰囲気があったが、消費者目線に立つと今は値上げをすべきではない。チルドには割安感が出ており、顧客が流れるかもしれない」と懸念する。
業務用の主力メーカーは新商品発表をこれから控えるが、業務用では値下げが進むという見方が強い。