加工場を持つ農業法人
四位農園

農場の真ん中に工場がある四位農園

 大規模な農業法人が自社の食品工場を持つことが珍しくなくなっている。有限会社四位農園(=しい、宮崎県野尻町、四位廣文社長)は安全・安心はもちろん、合理的な経営で輸入品に対抗できる国産野菜を作ろうと取り組んでいる。従業員124名、130ヘクタールという大規模な自社農場を持つ農業生産法人は日本では珍しい。地元に加工工場も作り、3年前から冷凍野菜の生産も本格的に開始した。

里芋の冷凍加工も行なっている

 四位社長は日本の農業の未来のあるべき姿を、自らの実践で示している。08年春に農林水産省主催の「第1回国産野菜の生産・利用拡大優良事業者表彰」で生産局長賞と農畜産業振興機構理事長賞を同時受賞したのも、四位農園への期待の表れだろう。
 四位社長が描く農業の姿を、あえて簡潔に表現するなら「エコロジーとエコノミーの両立」といえる。
 自然循環型の農法により安全・安心な農産物を作るだけではなく、「コスト削減を最大限に行ない、常に黒字経営を続ける」という方針は、農業が産業として成り立つという確信があればこそ。
 そのために規模が重要であることは言うまでもない。小規模な個人農家では機械化してもコストに見合わないが、四位農園の圃場は昨年の時点で100ヘクタールある。
 しかも4年前から手がけている茶畑が30ヘクタールほどに増えた。茶畑を増やしているのは日本的な食生活が復権するのではないかと言う直感と、高齢者でも働けることから。将来の従業員の雇用対策につながっている。
 トラクターやハーベスタなど農業機械は大型のものが各種揃っている。自社で改良も加えている。
 圃場を最大限に活用するために、輪作は年間2.5回転を実現した。しかも現状では3回転に近づいていると言う。それも、無理に輪作するのではなく、季節ごと、気候に合せた作物を選び、地力が保てるように有機肥料を自社で生産し、さらに土壌の成分も常に分析して合理的かつ自然にあわせた農法で実現している。

高齢化する従業員の仕事を確保するためもあり、茶の栽培を始めた

茶畑の近くに作った茶の加工場

 驚くのは近代的な管理手法。
 自営農場がある小林盆地は気候に恵まれているが、北海道のように見渡す限り畑と畦道が広がるような土地ではない。舗装道路もあれば民家もある。しかもそれぞれの畑では季節に合せて最適な作物を輪作している。これを一元的に管理するだけでも大変なはず。

 スケジュール管理は独特の方法をとっている。
 社員が出勤する部屋にはタッチパネル式のディスプレイを設置しており、IDを打ち込めばその日に誰がどの圃場で何をするかが一目で分かる。もちろん圃場の地図は壁に貼ってある。ソフトは独自の特注品。データはそのまま作物の履歴に活用できる。

 「トレーサビリティという言葉が使われていないころから履歴管理はしてきた。それを進歩させたのが2000年の電子化」と四位社長は振り返る。

本来の栽培方法で本物の野菜を作る

 同社の創業は1965年、設立は78年。農業生産法人四位農園が認定法人となった95年には海外の有機認証も取得した。その後、JAS有機認証も取得した。09年はグローバルGAPを取得した。
 トレーサビリティはもちろん、化学肥料や農薬をできるだけ使わずに栽培しており、安全なのは当然だが、それだけではない。
 「従業員のおばさんたちが四位農園の野菜はおいしいと良く買って帰ります」と言うのも露地栽培、適地・適作、完熟の本物の野菜を栽培しているからだろう。「自然な本物」が「安心」につながっている。

堆肥も自社製、自然循環を大切にする

 大手の量販店や外食チェーンにも四位農園の野菜を使っている所は多く、中には契約栽培の看板を畑に立てている外食チェーンもある。ロックフィールドなど惣菜メーカーも同社の野菜を利用している。
 2003年には真空冷却装置を導入し、育苗ハウスや高湿度保冷庫等も新設した。収穫直後の野菜を真空冷却装置で冷却するのはコストがかかるが、本物の野菜が持つ本来の機能性を保ちたいという気持ちの表れと言える。

収穫した直後の野菜を前処理

 農産加工場は2006年12月に操業開始した。IQFフリーザーを導入し、ほうれん草、小松菜、さといも、葉だいこん、いんげん、枝豆、むき枝豆などのバラ凍結品を生産できるようになった。ほうれん草と小松菜のブロック凍結品も手がけている。
 メインのほうれん草は年間2000t(原料ベース)、さといもは500t。ほうれん草は直営農場の採れたてを真空冷却して冷蔵庫で一時保管。ほとんどはその日のうちに加工場で冷凍しているのでフレッシュそのもの。後はそれをいかに良い状態で製品化するかがカギとなる。
 IQFフリーザーは時間当たり500tの能力。このほかに急速凍結庫でも1日8tを生産でき、日産能力は12tに達する。
 供給先は外食チェーンやスーパーなど。惣菜などにも使われており、ネットで検索すれば人気の高さがわかるだろう。
 学校給食での採用も多い。栄養士が圃場や工場を勉強にくることも少なくない。今後は生協にも広げたい考えだ。
 凍菜についても四位社長の考えは一徹そのもの。
 「第一に原料の良さ、これは自信がある。そして海外に負けないコスト。中国をターゲットにしている」という。
 視線は常に日本農業の活性化に向いている。
 「今と同じ工場が2つ3つとできれば地域も活性化する。でも当社だけではだめ。色々なところで機運が生まれている」と四位社長は語っている。

農場では珍しい大型の真空冷却装置

四位社長インタビュー 「目の届く範囲で加工をしたい」

 ――農業を企業化した経緯は?
 四位 24歳の時に農産物の集荷業を始め、販路を広げているうちに輸入野菜も扱うようになり、中国にも視察に行きました。ところがそこでは安全性がないがしろにされていると危機感を感じた。
 
 ――どんなところに?
 四位 生産の過程や出荷時の殺菌などです。輸入をやめ、農薬や化学肥料をできるだけ使わない国産だけを扱おうと決心しました。ところが国産ではコスト面で折り合いがつかず、栽培を引き受けてくれる農家が少ない。ならば自分で作ればいい。その後、どんどん栽培に特化していった。

 ――自営農場は130ヘクタールもある。
 四位 宮崎は温暖で野菜は年2.5回転の輪作を実現しており、今は年3回転の輪作に近づいていますから、延べで言えば300数十ヘクタール分の作物が採れます。

 ――加工も手がけている。
 四位 ずっと「本物を作ろう」という気持ちで栽培事業をしてきたのですが、加工の段階で何かを混ぜられるのが歯がゆくて仕方がなかった。当社から農産物を少しだけ購入し、他の原料も混ぜる所があったのです。

 ――それで「四位農園の野菜を使っています」とアピールされてはかなわない。産地偽装に巻き込まれる。
 四位 その恐れがあるので自社加工にしました。

 ―― 一次加工品は作物そのものの良さが差別化になる。
 四位 ポイントである作物には自信があります。世の中が求めているものを作っていますから。でも「国産だから高いよ」というのがこれまでのやり方。食は安心で安全なのが当たり前で、コストを落とし価格を下げるのはこれからです。

 ――価格を下げようとすると同業者からの風当たりも強いのでは?
 四位 いずれFTA(2国間貿易)の広がりにより海外が攻めてきますから、国産も体力をつけておかなくてはいけないのです。だからコストを下げる仕組みを早く作ろうとめざしています。でも民間が何を言ってもだめ。そこで、まず自分でやってみた。

 ――国全体の問題だ。
 四位 ターゲットは海外なのですから、うちだけではダメです。できれば九州の農家全てがやって欲しいくらいです。それがなかなかできない。でも、機運は高まっています。

 ――冷凍も始めた。
 四位 野菜は完璧に作れます。しかし、最適な季節に作ることが大切であり、1年中同じものは作れません。だから冷凍する。ただ、その点をわかってもらえないこともあり、残念な点です。

 ――ある国産凍菜メーカーは「人件費の安い中国は異物除去に人手をかけられる。一緒にされてはかなわない」と言っていた。それがわからない人が居る。
 四位 一部の販売先は、夾雑物の有無だけが品質だと思っているようですが、より大切なのは野菜の機能性ではないでしょうか。つまり適地栽培。本来の機能を持った野菜を作り、劣化しないように加工し、価格はできるだけ対抗できる。これが大切だと考えています。

四位社長

何より原料の良さ

 ――明確な品質方針(下に掲載)を掲げている。
 四位 高校卒業後に農水省の試験場で2年間研修し、野菜栽培の原理原則は分かっているつもりです。「四位農園は自然界の気候、大地を生かし、人間等の共生の為の自然循環型農業を目指します」というのは、自然界で作るということです。「今不足しているもの〜」というのは、何が求められているかを探すということ。

 ―― 一般の家族農家ではなかなかできない。
 四位 「本物の食品〜」というのは単なる物を作っている訳ではないのですから、それぞれの機能をちゃんと持った食品に育てるということ。

 ――何かで読んだが、今の野菜は昔に比べて栄養素が少ないという。
 四位 当社は野菜の栄養分も計測しています。うちのほうれん草は硝酸値が小さくてびっくりする顧客もいます。

 ――「栽培するものは食しても安全」というのは当然として、「自然界に放置しても安全〜」というのはなるほどと思う。
 四位 現実はそれがないがしろにされていますから。「農業界での自然原理の理解に邁進し」は次の世代に継承することが大事だから。継承するには企業として黒字をキープしなくてはいけない。

 ――2005年に品質ISO9001を取得した。
 四位 その前からマネジメントがちゃんと機能するにはどのような仕組みにしようか悩んでいたのでちょうど良かった。08年には食品安全ISO22000を取得しました。09年はグローバルGAPを取得しました。

 ―― 一部には「認証を取らないと客が買わないから」という話を聞くが、そういう考えは本末転倒だと。
 四位 そういう考えはおかしいですよ。品質ISO9001はそれまでシステム的に素人集団だったから取り入れたわけで、食品安全ISO22000は製品をしっかりと作るため。GAPは農業の基本をしっかりとしようという目的があります。

 ――堆肥も自社で生産している。
 四位 化学肥料を完全にゼロにはできませんが、極力堆肥を使っています。堆肥の成分は常に分析しています。それを社内に掲示して社員教育にも活用しています。
 ――それも「自然原理の理解」の一つですね。