牛丼改良、“熟成”工程加える

 吉野家は主力商品である牛丼の具材を改良した。牛肉の熟成期間を従来の4日間から約2週間に延ばすとともに、スライス工程も見直して、より精度を上げるようラインの更新を進めている。競争激しい牛丼の品質向上に余念がない。

 「牛丼は、どこまでうまくなれるのか」――。同社が掲げているこの永遠のテーマに真っ向から挑むには、やはり牛肉そのものに改良を加えなければならないのは必然でもあった。それが牛肉の「熟成」だった。
 牛肉を適正温度で寝かせると、時間とともにたん白質が分解され、うま味成分であるアミノ酸に変化する。ペプチドという成分が増え、牛肉の酸味が抑えられ、まろやかになる。
 温度を上げ過ぎると熟成が進み過ぎてしまうし、低すぎるとそもそも熟成が進まない。牛肉の場合、冷凍から冷蔵に変わるポイントは−1.7℃。この温度帯でコントロールすることがカギとなる。
 同社が考えていた従来までの熟成は、冷凍された原料肉を解凍、スライスし、調理するまでに必要な時間の中で自然に熟成させるというものだった。今回の改良では、冷凍から冷蔵に移行する段階を通じ、積極的に熟成工程を加えることで、よりおいしい牛肉になると、看板商品の新たな方向性を決定づけた。

    平田センター長

 この工程を確立するために必要なのは、牛肉を冷凍から冷蔵へ変える時に適切な温度管理を施すこと。そのため、専用の冷蔵庫を確保した。
 原料の牛肉は−18℃以下の冷凍庫で保管されている。同社の東京工場(埼玉県加須市)に納品される2週間前に冷凍庫から熟成用の専用冷蔵庫へと移す。ここで約2週間かけて、ゆっくり温度を上げていく。
 冷蔵庫は大型で庫内は広い。全体の温度をムラなく、均一に保たなければならない。そのため空気の循環が重要となる。送風したり、箱と箱の間にすき間を保つなど積載にも配慮し、庫内全体の温度の均一化を図った。
 熟成専用の冷蔵庫は、東京の大井や川崎の東扇島にある協力会社が運営する。「熟成の肝となる温度管理ができなければ、牛肉も生まれ変わることができません。これまで試行錯誤もありました。協力会社の支えがあったからこそ実現できました」と、グループ商品本部・HD食肉加工センターの平田正和センター長は謝意を示す。

 約2週間経過した牛肉は冷蔵庫を出て、トラックに積載して東京工場の食肉加工センターへ。従来は冷凍車でセンターへ配送していたが、新工程では冷蔵車で運搬する。
 これまでは工場で解凍を行っていた。マイクロウェーブで−18℃から−7℃、−8℃ほどに。その後外箱を開け、真空パックをはずし、肉に問題がないかをチェックしていた。
−8℃ほどの牛肉はまだカチカチに硬い。危険防止のため、スタッフは作業中ヘルメットを着用していた。チェックが終わった牛肉は解凍庫に収められ、−2℃前後まで解凍を進める。スライスする前に軟骨などを取り除くトリミングを行っていた。
 今回の改良では、搬入した牛肉はすでに解凍が進んでいるため、マイクロウェーブは使用しない。−2℃前後までになっているため、肉は柔らかい。スタッフは通常の作業服で作業できる。
 真空パックをはずしたときに、肉質をチェックしつつ、トリミングをまとめてするよう変更した。その後スライスへ移る。

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2014年8月6日号掲載