ようこそ、食品機械の世界へ――学生向けの企画を立案
長沼製作所 専務取締役 長沼 秀一氏

 「食品機械の展示会は小学生の頃から見に行っています。父(長沼一雄社長)と会場を歩くと、いろいろ説明してくれておもしろかったのですが、1人で回ってもよくわからない、というのが本音。もっと言えば、展示会は学生向けではない――とも感じていました」。日本食品機械工業会の若手で組織する青年部。そこで活動する長沼製作所の長沼秀一専務はこう打ち明ける。

長沼専務(設立当時に掲げていた看板の前で)

 テレビで食品工場の内部に迫る番組が増えたせいか、一般の人、特に学生などからも食品機械はおもしろいと言ってくれるようになった。しかし、それを作っている会社までは一般にわからない。それでは食品機械業界に有望な人材が集まらなくなる――。長沼専務は危惧していた。
 仕方がない、と言ってしまえばそれまで。しかし、「本当にそれでいいの?」とずっと感じていた。そこで日食工の青年部が立ち上げたのが、学生を対象とした「FOOMA魅力紹介企画」。2014年、初の試みだった。この企画のリーダーに抜擢されたのが長沼専務だった。
 目的は学生に食品機械業界をもっと知ってもらい、学校の勉強や進路を決める際に役立ててもらうこと。第1回の2014年は、都内の工業高校の3年生が参加した。
 見学を前に、長沼専務が食品機械業界の特徴や就職活動の経験談などを生徒に紹介。高校生の目線に立った内容に、緊張気味だった参加者の表情も和らいでいった。
 会場見学は参加者30名を5グループに分けて出発。青年部が設定したコースに沿ってグループごとに4社のブースを見学した。学生のために準備していた各社の担当者は、「わかりやすさ」と「楽しさ」に重点を置き、実演や体験も交えて説明した。
 参加した生徒からは「会社ごとに1つひとつのこだわりが聞けて楽しかった」、「肉が0.5cmに切れるのはすごい、神業だと思った」、「今まで気にしていなかった食品の“包装”に興味がわいた」――など好感触。長沼専務は「食品機械だけでなく、まずは食品業界そのものに興味を持ってもらうことを第一に考えました。参加してくれた生徒は食品メーカーに就職するかもしれませんし、将来のお客さんになるかもしれません」と一応の成果を表現。同時に「この企画に評価はいただきましたが、課題も浮き彫りになりました。まだ始まったばかり。今後も続けていきたいし、より充実した内容にしていきたいですね」と気を引き締める。

技術を次代へ――3代目動く

 技術を次代に伝える――。これは工業会が懸念する課題であることはもちろん、長沼製作所が直面する問題でもあった。
 同社は大正期に東京浅草で包丁類の製造販売業として創業。その後、長沼専務の祖父にあたる長沼一郎氏がカッターやチョッパーなど食肉加工機械の範疇をより広げ、1951年(昭和26年)長沼製作所として改組した。「国産の食肉加工機械が欲しい」という当時増えてきた顧客の声に応じるためだった。
 長沼専務は3代目。「祖父の時代からお付き合いしている会社も、時代とともに変化しています。廃業を余儀なくされた会社もあります。特注の仕入先のトップ5社でも2社には子どもがなく、3社は女性、と後継問題を抱えています。自社がどう踏ん張ってみても、協力してくれる会社がこの先どうなってしまうか。そういう意味でも3代目はつらいのかもしれませんね」。長沼専務は厳しい表情を浮かべる。「だからと言って、このまま黙っているわけにもいきません。私たちの時代で盛り上げていかなければなりません」。

 大手電機メーカーを経て、2009年同社に入社。「戻ってきたころ、会社の雰囲気は良くなかった」と当時を振り返る。得意先の1つであるスーパーマーケット業界は出店ペースがピークを迎え、下がりに入りつつあったころ。同社の経営も厳しい状態になっていった。それが、社内の閉塞感を作り出していたのかもしれない。
 組織改革。まずはこれに着手。営業や製造などの部長職を一新するなど組織を立て直した。今まで部署で偏っていたコミュニケーションも改善し、ヨコの連携をより強化。話し合いの場を作るように心がけた。各人の目標設定なども従来とは違った形で管理するようにした。そうした取り組みにより「戻ってきた当時よりも、社内が明るくなりました」と笑みを浮かべる。

 2014年は増益で着地。奇しくも大手外食チェーンが中国で生産委託する鶏肉工場の問題があり、消費者の関心が食材の下処理にまで広がり、国内生産が評価された。これに伴い、同社が扱う国産の食肉加工機の引き合いが高まったという。「忙しい1年となりましたが、今回の問題は私たちも当事者意識を持たなければなりません」と語る。
 2015年、長沼専務はより責任の強い立場となる。引き続き、総合組織の強化と人員の増強を進めるという。現在、同社社員の平均年齢は40代半ば。そこで若手の採用と育成で若返りを図り、次代へ技術を伝えていくことが急務、と新しい企業像を描いている。