年次大会でコールドチェーンの課題を報告
日本冷凍空調学会は年次大会を10〜12日、東京の東海大学高輪キャンパスで開催した。産学の研究者が冷凍技術や空調技術に関する最新の研究内容を報告した。
その一環として、10日に開催した「コールドチェーン高度化開発普及協議会シンポジウム」では、現在のコールドチェーンに対する様々な課題が報告された。
シンポジウムには冷食メーカー、ショーケースメーカー、輸送システムメーカー、小売業、水産庁の各層の有識者が参加して現状と課題を報告した。
冷凍空調学会のコールドチェーンシンポジウム
冒頭、東京海洋大学の鈴木徹教授が「コールドチェーンが始まった東京オリンピック開催の年から50年を経て、2020年の東京五輪開催も決まったこの時期は、コールドチェーン見直してみるよい機会」と挨拶した。
基調講演で東京海洋大学大学院の渡辺学准教授はコールドチェーンの解決すべき課題について�）寨茲量榲�を果たせているか（連続性）��地球環境の時代に適応しているか（持続可能性）��次世代のコールドチェーンに向けた取り組み（高度化）――の３点を挙げた。
千葉畜産工業の豊嶋敬史社長は「知的財産から見たコールドチェーンの現状と課題」をテーマに講演し、冷凍関連設備に関する特許出願申請が減少していることを指摘。「急速凍結については20世紀に開発された技術の延長線上にあるが、現状ではそれで十分対応可能である」とした。一方で、消費者のクレームの４分の１が流通過程に問題があったと思われるもので、その多くが温度管理に起因することを指摘。そのクレーム数は毎年横ばいで推移していることから、流通の全ステージで−18℃以下を確実にすることが望まれると主張した。
さらに、世界的な日本食ブームがコールドチェーンに支えられているとして、「日本のコールドチェーン技術を日本食と共に世界に展開できればすばらしい」と希望を語った。
シンポジウムでは、小売店から、輸送や販売の段階で必ずしも−18℃が保たれていない現状も報告された。質疑応答でオープンショーケースの温度管理に対する指摘もあった。
環境と「おいしさ」のためにも
同シンポジウムで、東京海洋大学大学院の渡辺学准教授は概要次のように基調講演を行った。
「1964年に開催された東京五輪で帝国ホテルの村上信夫氏が、世界中から集まった選手の食事をまかなうために冷凍食品を利用した。1965年には当時の科学技術庁資源調査会が出した『コールドチェーン勧告』を機に、全国的な低温流通ネットワークの整備が進んだ。
では、コールドチェーンは完成された技術なのかと言えば、まだ解決すべき問題がある。
日本の冷蔵倉庫は７つの温度帯に分けている。例えばまぐろは−50℃以下のＦ４級、牛肉などは−40〜−50℃のＦ３級、冷凍食品は−18℃のＦ級で保管する。しかし、この分類は経験的なもの。科学的根拠はあるのだろうか。最適温度は保存期間によっても異なってくる。
そこで、氷結晶やテクスチャー、色調、官能評価等で最適な温度を導き出す方法が考えられるが、食品の反応速度はマチマチであり、前述以外の様々な反応も関与しており、最終的には官能評価ということになる。
しかし、官能評価は再現性や妥当性がない。そこで、それぞれの反応が官能評価にどの程度影響するかを分析すればいいのだが、結局は（味、食感など）何が重要かの違いや、地域や世代の違いをどうするかが問題となる。
つまり、あらゆる食品を分析してデータベース化しないと（最適温度を）評価できないのが現状となっている。
流通においても、現状が最適なのかどうかはわかっていない。例えばトラックが早く到着してしまい、倉庫に入らず野ざらしになるようなことも、現場ではよくあると聞く。
環境の問題もある。地球環境に配慮しながらも持続可能な省エネの温度管理が必要となる。
ソフト的な対策も考えられる。保存期間が短ければ、多少高い温度で保管しても品質は許容範囲になり得るので、保存期間に合わせて適切な温度設定にすれば省エネになる。
日本の食品廃棄は10％あると言われているが、これは生産から流通まで全てのコストを無駄にすることになる。
今や食品は『食べられれば良い』ではなく『おいしくなければ食べてもらえない』時代であり、品質を高めれば自発的にフードロスを削減できる。それならば、コールドチェーンで多少エネルギーを多く費やしても、トータルでメリットとなることが考えられる」。
（水産タイムズ社「フードエンジニアリングタイムス（ＦＥＮ）」2013年９月18日号掲載）