ハラル認証、工場全体で取得
こいしや食品(1)

 大豆加工品メーカーのこいしや食品(栃木県宇都宮市)はハラル食のニーズが高まることを見越し、ハラル認証を豆腐と油揚げを製造する本社工場で昨年10月取得した。豆腐業界では初。国内の食品製造業では工場のライン単位で取得した例はあるが、工場全体で取得するのは珍しい。

本社工場の外観

 ハラル認証――。この言葉が同社の中で話題に出始めたのは、2013年の春頃からだった。同社の商品開発に携わる社外アドバイザーが「こんな認証があるよ」と口にしたのがきっかけ。大豆加工品がメインの同社なら、「豚肉や酒など他の原料を扱うメーカーよりは取得しやすいはず」とアドバイスがあった。ただ、この時期はまだ会議の合間の雑談に出てくる程度で、それが主たるテーマとなるものではなかった。
 しかし、事態は一変する。同年9月に東京五輪の開催が決定。12月には和食がユネスコの無形文化遺産に登録された。国もインバウンドを推進する施策を積極化すると表明し、訪日外国人の増加が見込まれることが予測された。
 「イスラム教徒の訪日観光客は増えていますが、今後はさらに増えるでしょう。しかし、日本では他国に比べてイスラム教徒が安心して食べられるものがまだ多くはありません。日本の伝統食である豆腐や油揚げを作る当社としては、安心して伝統食を食べていただきたいという思いから取得をめざしました」。商品開発課の高橋暁氏は説明する。

充填豆腐の製造工程

 2014年、取得に向けてプロジェクトが本格的に動き出す。高橋氏はその担当者になり、ハラル・ジャパン協会(東京都豊島区)のサポートを受けながら、プロジェクトを進めた。
 取得準備に乗り出して間もなく、うれしいニュースが飛び込んでくる。愛知県の海苔メーカーがハラルの認証を2月に取得した。海苔業界で初のことだった。
 この海苔メーカーとは不思議な縁がある。このメーカーがサポートを受けたのも、ハラル・ジャパン協会。しかも、前述の社外アドバイザーはこの海苔メーカーとも親しい間柄だった。
 「こうした繋がりは非常に大きかったですね。取得に向けた費用や実務的なもの、ハードルはどれくらいかなど多くの情報をいただきました。あちらは海苔で、当社は豆腐。どちらも和食に欠かせないものです。当社も取得しなければ、という思いがいっそう強くなりました」という。

認証マークを付した豆腐がラインを流れている

 認証機関は日本アジアハラール協会(千葉市花見川区)。6月のプレ監査で工場の視察を受けたが、このときも好感触だったという。本社工場の生産アイテムは、豆腐や油揚げ、がんもどきと、どれも大豆由来製品であることが大きかった。
 「しかし、ここからの作業が時間を要しました。原料の詳細を明確にするのに1件1件問い合わせなければなりません」。高橋氏は当時を振り返る。
 豆腐を固めるため凝固剤と合わせて使うゼラチンは、豚肉由来の製品から魚由来の製品に切り替えた。保存料として使うアルコールは基準値以下になるよう調整した。今後も新たな原料を使う場合は同協会の承認が必要となる。
 「原料メーカーにその原料の規格書を取り寄せるのに時間を要しました。通常の業務と並行していたので、この工程に3~4カ月ほどかかりました。しかし、対象となった原料は30種類ほどと比較的少ない。このことからも当社が取得しやすかったことを裏付けています」。

ハラル担当の高橋氏

 10月、本社工場の10ラインすべてでハラル認証を取得した。工場の生産エリアは約6000㎡、日産能力は10万丁。年明けから150g、300gの豆腐と油揚げの出荷を始めている。日本人向けと中身は同じだが、パッケージのデザインはハラルのマークを表示している。
 また、本社工場で生産する商品すべてにハラル認証をうたえるため、学校や事業給食、ホテル、外食関係、機内食など業務用としても販路を広げたいとしている。
 豆腐業界はし烈な価格競争の中で中堅企業が撤退し、上位企業に集約が進んでいる。急激な円安や相場高で大豆や油などの調達コストが収益を圧迫するなど厳しい状態が続いている。
 「だからこそ、今までと同じことをやっていてはいけません」。高橋氏は厳しい表情を浮かべる。「このハラル取得を機に、新規展開を図りたい」と意気込む。
 取得して間もない11月に、日本で初開催となる専門展「ジャパン・ハラル・エキスポ」に、前述の海苔メーカー、8月に認証を取得した米卸・雑穀メーカーと共同出展した。
 この3社が集まれば“和食”がよりいっそう際立つ。会期中は盛況で、同社のもとに多くの企業が訪問した。「いろいろな情報を得ることができました。ハラルはまだ手探りが多いのですが、動き出さなければ何も始まりません」。“和食”をキーワードに先鞭をつけた同社の挑戦は始まったばかりだ。(次号へ続く)

出荷前の豆腐、認証マークを付している

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2015年2月4日号掲載