農林水産業界では2012年に、食品残さや畜産廃棄物などの有機質資源から微生物を使って、短期間に無機肥料成分を回収する技術など、多くの研究成果を得た。農林水産技術会議事務局は「2012年農林水産研究成果10大トピックス」を選定した。
民間や大学、公立試験研究機関、独立行政法人研究機関などの農林水産研究成果のうち、内容が優れるとともに社会的関心が高い成果を選出した。
○高温で乳白粒が発生する原因を遺伝子レベルで解明 −高温登熟耐性品種の開発に期待−
農業・食品産業技術総合研究機構の中央農業総合研究センター、新潟大学農学部、理化学研究所は、登熟期の高温で発生するコメの乳白粒はデンプン分解酵素α-アミラーゼが高温条件下で活性化することが原因であることを解明した。α-アミラーゼ遺伝子の働きを抑えたイネは高温で乳白粒の発生が低減されたことから、高温登熟耐性品種の開発につながると期待される。
○トマトの全ゲノム解読に世界で初めて成功 −育種の加速に期待−
かずさDNA研究所、農業・食品産業技術総合研究機構の野菜茶業研究所は、国際トマトゲノム解読コンソーシアムに参画し、トマト全ゲノムの解読に貢献した。トマトゲノム中に約3万5000個の遺伝子が見つかった。今後ゲノム情報と形質の関係を明らかにすることにより、品種改良と新しい栽培技術の開発が期待される。
○低カドミウムコシヒカリの原因遺伝子を発見 −カドミウム低減技術のコメ以外の作物への展開に期待−
農業環境技術研究所、東京大学などはカドミウムをほとんど吸収しないコシヒカリを開発し、この原因が鉄やマンガン・カドミウムを土壌から吸収するたん白質の遺伝子の変異であることを解明した。このことにより、イネ以外の作物にも低カドミウムの形質を付与する技術開発につながることが期待される。
○世界初、免疫不全ブタを開発 −ヒト組織や臓器の再生に向けた研究進展に期待−
農業生物資源研究所、プライムテック、理化学研究所は遺伝子組換えと体細胞クローン技術により、免疫機能を欠失させたブタを世界で初めて開発した。今回開発した「免疫不全ブタ」を活用してヒトの創薬の研究、新薬の前臨床試験、ヒト組織や臓器の再生に向けた研究が進むことが期待される。
○ブタのゲノムと遺伝子配列の解読に成功 −ブタの品種改良の加速化に期待−
農業生物資源研究所、農林水産・食品産業技術振興協会の農林水産先端技術研究所が参加する国際ブタゲノム解読コンソーシアムは、ブタゲノムの塩基配列の90%以上(役25億塩基)の解読を行ない、2万5000個の遺伝子が存在することを解明した。今回の成果により、ブタの肉質・抗病性・繁殖性の改良の加速化、ブタの臓器移植などの医療用モデル動物としての利用が期待される。
○汚染された農地土壌からセシウムを99%除去 −汚染土壌等の大幅な減容化に期待−
農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター、国際農林水産業研究センター、太平洋セメント、日揮、東京電力は反応促進剤を加えた熱処理により、汚染土壌から土工資材等に利用可能なレベルまで放射性セシウムを分離除去する技術を開発した。同成果を活用した汚染土壌などの大幅な減容化が期待される。
○牛の分娩後に胎盤を剥離排出するシグナル物質を世界で初めて発見 −子牛生存率の向上や畜産農家の労働負担軽減に期待−
農業・食品産業技術総合研究機構の畜産草地研究所、北海道立総合研究機構の根釧農業試験場・畜産試験場、共立製薬は牛の胎盤を剥離排出するシグナル物質を世界で初めて発見した。この成果により、胎盤停滞のない、昼間の分娩誘起による畜産農家の負担軽減が期待される。
○青刈りトウモロコシ用高速不耕起播種機を開発 −飼料用トウモロコシの栽培の省力化に期待−
農業・食品産業技術総合研究機構の生物系特定産業技術研究支援センター、アグリテクノ矢崎は高速作業が可能な青刈りトウモロコシ用不耕起播種機を開発した。2012年度中に市販化予定であり、青刈りトウモロコシの栽培が大幅に省力化されることが期待される。
○有機質資源を短期間で無機化、エネルギーを必要としない新技術 −CO2排出量の大幅な抑制に期待−
農業・食品産業技術研究機構の野菜茶業研究所は食品残さや畜産廃棄物などの有機質資源から微生物を使って、短期間に無機肥料成分を回収する技術を開発した。化学肥料のように電気などのエネルギーを製造時に必要としないため、同技術の製品化や普及により、CO2排出量の大幅な抑制が期待される。
○果樹用新型スピードスプレヤーを開発 −農薬飛散・騒音を大幅低減−
農業・食品産業技術総合研究機構の生物系特定産業技術研究支援センターは棚面に近づけて散布できる昇降型のノズル管支持装置により、エンジン・送風機の回転数を下げて薬剤散布が可能となる棚栽培果樹用の新型スピードスプレヤーを開発した。従来機より農薬飛散・騒音が少なく、園地と住宅地が近い都市近郊型栽培での活用が期待される。