食品工場向け生産管理で成果導く
ローゼック 代表取締役 早川 雅人氏

 食品工場の情報化は喫緊の課題だが、「既存の生産管理システムは食品専用にゼロから開発したものがないため適さない」と早川社長は指摘する。ローゼックの生産管理システムは中小規模の食品工場で活躍している。

      早川社長

 ――食品メーカー向けに生産管理と販売管理システムの開発を手がけている。
 早川 様々な製造業向けにシステムを開発していますが、特にターゲットとしているのは食品。中でも年商40〜50億円クラスの中小規模メーカー向けのシステムが私たちの強みとしているところです。惣菜メーカーや洋菓子メーカーなどにシステムを納入しています。

 ――食品向けを開発したきっかけは?
 早川 ローゼックの設立は2010年4月。以前勤めていた会社の仲間とともに立ち上げました。以前から製造業向けに生産管理システムを開発していましたが、特に食品メーカー向けの開発に携わることが多く、経験となっていました。また、私はその会社で東京支社長でしたので人脈を築くこともできました。

 ――食品製造向けの管理システムは他の製造業と何が違う?
 早川 まず製造工程を厳密にシステム化しすぎないことです。特に日配系の工場では、生産リードタイムが極めて短いうえに計画変更が頻繁に発生します。このような現場はコンピュータでガチガチに縛ってしまうと生産効率が低下してしまいます。また、“バラつき”の問題もあります。規格化された機械部品などと違って、動植物に由来する食材は個体ごとに大きさも重量も異なります。傷んでいたり皮が厚かったりすると歩留りが大きく変動します。このバラつきのあるものを使って的確な指示をコンピュータから出すのは難しいんです。

 ――製造工程やバラつきをうまくシステム化できるかどうかだ。
 早川 逆にいえば、システム化を追求しすぎないことですね。食品に限っては、あまり硬く考えないことです。

 ――食品向けの生産管理システムを構築する際に注意すべき点は?
 早川 レシピ構成(製品や仕掛品にどのような食材や包材がどれだけ使われているかを表す)の作成や維持に手間がかからない仕組みにすることです。まず、仕入先から一括表示作成や商品仕様書作成用に入手する原料規格書。エクセルデータで入手しているのなら自動的に取り込みたいですね。手入力は誤入力の恐れがあるし、手間もかかります。
 次に、仕掛品の品番(コード)の扱い。「洗浄」、「殺菌」、「脱水」などと細かく分けすぎてしまうと、マスタデータの維持に大変な手間がかかります。他の製造業と違い、仕掛品在庫をあまり持たないのですから、仕掛品の登録は少なくできます。少なくできないならばシステム側の問題です。
 また、食品の在庫管理は面倒です。賞味期限やロット、ケース・ボール・バラといった荷姿の区別が要求される製造業は、他にあまりありません。

 ――この手強い食品工場、特に生鮮品を扱う弁当などの製造現場に入るべき生産管理システムは今までなかった?
 早川 他の製造業向けのシステムを土台にして、それを食品向けにカスタマイズするものはありましたが、食品のためにゼロから開発されたシステムはあまり聞きません。そこで、製造工程やバラつきに対応するためにはカスタマイズが必要でした。
 私たちのシステムは初めからそれらを考慮して開発しました。難しいシステムに仕上がっているものと思われますが、画面の見た目はシンプルで、初心者やパートの女性など現場で働く人たちが簡単に操作できるようにしています。

 ――シンプルというと?
 早川 システムを開発するエンジニアは“こんな機能もある”、“あんな機能も使える”と見せたがるものです。しかし、それはユーザーを混乱させるだけ。毎日使うものだけを前面に、あまり使わない項目は普段見えないようにすれば済むことです。どの項目を最優先にしたいかはユーザーそれぞれで異なります。将来、必要項目が変わった場合でも、ユーザー自身で設定を変えられるようにしています。

手書き帳票のトレサビシステム

 ――新たな生産管理システムをこのほど開発した。
 早川 QRコードを印字した紙帳票を画像化して、検索やトレーサビリティを実現する帳票管理システム「カミトレ」を開発し、昨年12月から発売しました。1工場のライセンス25万円、導入支援費24万円からで、3カ月無料の体験版CD-ROMも配布しています。

 ――どのようなシステム?
 早川 東京都中小企業振興公社から新製品・新技術開発助成事業の認定を受けて開発した食品製造業向けソフトウェア製品です。QRコードを付与した帳票をスキャナで読み込み、自動的に分類保存します。これにより、従来は紙の現物を見なければ分からなかった手書きの情報がネットワーク上のどこからでも閲覧できるようになります。また、レシピ情報とロット番号の登録機能を備えており、帳票のトレースが可能になります。

 ――中小メーカーにも導入しやすい?
 早川 Excelという制限はありますが、現在使用中の帳票を利用でき、現場業務の流れを変えずに短期間で導入できます。また、パソコンとプリンタ、スキャナがあれば利用できるので、多くの企業で新たにハードウェアを購入する必要がありません。
 先行して導入した企業は製パン、調味料、洋菓子などの5社。HACCPやISOの取得により帳票類は増えていますが、これを効率的に管理できるようになりました。品質クレームや製造日報の管理のために利用している企業もあります。

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2013年2月6日号掲載