価格交渉は原料から
クックサン 代表取締役社長 岩本 真明氏
食品スーパー、いなげや（本部東京都立川市）のグループ会社で惣菜製造販売を担当するクックサンは今３月期、増収増益で着地する見通し。製品の原料を１つひとつ分析し、原料メーカーと個別に交渉してコスト削減に繋げている。「商品価格はメーカー１社と交渉するだけでは限界がある」と岩本真明社長。その真意は？
岩本社長
――最近、中国の生産現場を視察したとか。
岩本 中国の人件費は年々高騰しており、省人化を図る動きが顕著です。「このラインでは従業員が何人必要か」、「この機械を導入すれば何人削減できるか」とよく現地の経営者に質問を受けました。彼らは日本のことをよく知っており、どうレベルアップしていくべきか必死です。手先の器用さでは日本と変わりありません。レベルの高さを感じています。
――中国製品が高騰した場合、産地をシフトすることは？
岩本 以前、日本で焼き鳥を生産していましたが、コスト面から中国産に切り替えました。その後、さらに人件費が安いタイの工場に依頼しました。確かにタイの人件費は安かったのですが、日本と中国では１時間当たり焼き鳥を100本生産するのに対し、タイでは半分以下だったため、人時生産性が落ちました。こうした経緯から、再び中国に戻しました。スーパーマーケットの惣菜としては、中国産を視野に入れながらコストを下げる考えです。
――だが中国産も高騰している。
岩本 こうした状況に対応するため、原料コストを細かく分析するようになりました。例えばコロッケの場合、ポテト、肉、野菜、バッター液、パン粉、油など多くの原料が必要です。メーカーがこれらの原料をどこから仕入れているのか、どういう物流で運んでいるのかをまず把握します。すでに当社と取り引きがある原料メーカーだった場合、個別に交渉し、そこから製品価格を詰めます。この交渉を通じて、製品メーカーの担当者が原料の仕入先や物流コストを把握していないケースが意外に多いことも分かりました。
中国の工場を視察した際、無駄・不要な作業を見つけると、同行した日本のメーカーにアドバイスしてもらいしました。結果的に人件費がこれだけ下げられると、中国の工場に説明し、価格交渉に入ります。さらに当社はどういう工程で商品を生産しているのか把握しているので、細かい仕様変更にも「あそこをこうすればいい」と、具体的に指示を出すことができます。
――店頭では原料産地を細かく表示している。
岩本 当社で販売している商品はすべて原料がトレースできます。言い換えると、原料がトレースできない商品は扱いません。安全安心面について買物客からの問合せに対応するための専任スタッフを４年前から置いています。１日に１〜２件問合せがありますが、これまでトラブルは一度もありません。専任スタッフの両隣りには栄養士がいますので、栄養面での問合せにも対応できます。
――商品開発はどのように？
岩本 �’稱�客からの要望��当社の創造性��世の中の流行――と大きく３つのヒントをきっかけにしています。ちまたではやっているメニューを商品化する場合、クックサンだったらどう表現するか、という観点で開発します。
面白いことに、メーカーの担当者が代わると、売上げが急激に伸びることがあります。感度が良く、こちらが望む商品を次から次へと提案してくれたからです。その担当者、８年前まで課長にもなっていなかったのに、今では本社の部長に昇格しています。こういう人はどんな仕事に就いても成功するのでしょうね。
――看板商品の１つ「黄金メンチカツ」はどのようにして生まれた？
岩本 これは当社の提案です。牛肉と豚肉の配合比率をいろいろと考え、まさに黄金比率にしました。新店のオープン記念に１個98円で販売すると、3000枚売れたこともありました。
――今３月期の見通しを。
岩本 計画通り増収増益で着地できそうです。来期は震災以降の「もったいない」という買物客の意識が一層強まりそうです。しっかりとコミュニケーションを図っていくつもりです。
円安に振れ、原料高で国内市場がインフレに進むことも考えられます。仮に100円の商品を180円にした場合、価格と価値が一致し、同じような満足感が与えられる商品をどう開発するかが、ますます重要になるでしょう。
（いわもと・まさあき）1979年いなげや入社、99年クックサンに転籍し、取締役、2008年常務、09年から現職。1949年（昭和24年）１月５日生まれ、63歳。日本大学経済学部卒。