阿部万寿雄の「食の安全」と「ものつくり」 −4−
HACCPについて

 食品は人が直接口にするもので、その取り扱いを誤れば食中毒やけがなどの事故につながり、時には人命にかかわる重大な社会問題を引き起こす。
 前に述べたように、残念なことだが、近年は食の安全に関わる食中毒・表示偽装事件が多発している。このような食品に関わる事故は企業の社会的信用を失墜させるばかりでなく、被害者への膨大な損害賠償や、企業側には行政処分として営業・操業停止処分など経済的にも甚大な被害を受け、たとえ優良企業でさえ倒産に追い込まれるケースが起こっている。
 現在、食品の安全を予防するのにHACCP(ハセップ・ハサップ)は世界で最も優れた衛生管理の方法であると言われている。
 農場・漁場から食卓まで食の安全を守ることは、人の生命を維持し、健康を保持増進するための基本的条件といえる。

(1)HACCPとは

 Hazard Analysis and Critical Control Point
 米国で誕生し、今では衛生管理の国際基準になっている。「危害要因分析・重要管理点」の略称で、危害要因の分析に基づいて健康に悪影響をもたらす原因を調べ、人に食中毒やけがを事前に予防するシステム。食品の安全性を向上させ、あくまでも予防を目的とするもので、事故発生後の対策や原因追究のシステムではない。

(2)HACCPシステムの起源

 このシステムは世界の最先端技術NASA、米国の宇宙開発計画(アポロ計画)で開発された、絶対に食中毒を起こさない宇宙食の開発が発端となっている。。
 1960年代アメリカの大手食品メーカー、ピルスベリー社が米国の宇宙計画のための食品供給の開発研究を開始した。従来の食品製造方法と管理方式では安全を保証するのに、最終製品テストに必要な膨大な試験サンプルと時間が必要であった。
 そこでピルスベリー社は安全を保証する唯一の方法として、製造中の各工程で危害を発生させないように予防するシステムを開発、確立した。
 この優れたシステムは多くの食品製造業者と米国政府FDA(食品医薬品局)が採用した。
 FDAは1973年にHACCPシステムを食品メーカーに義務づけた。さらに国連のコーデックス食品規格委員会で支持され、現在では国際基準となり世界で食品の安全確保に活用されている。