グループ外で通用する企業に
日清エンジニアリング 取締役社長 山田 幸良氏 (工学博士)

 粉体技術で最先端を歩む日清エンジニアリングだが、近年特に注力しているのが総菜工場の建設という。日清製粉グループ以外の仕事が8割を超え、「その結果鍛えられた」と山田幸良社長は振り返る。日清製粉館林工場の工場長も務めた山田社長に食品工場の施工のポイントなどを聞いた。

      山田社長

 ――今年設立40周年を迎えた。
 山田 日清製粉グループの技術部門から独立し、設備施工や機器販売を業務とするエンジニアリング会社として設立しました。しかし、仕事の比率はグループ内が15%、残り85%は外部の仕事で占めています。

 ――食品メーカーから誕生したエンジニアリング会社はいくつかあるが、外部の仕事の比重がこれほど高いのは珍しい。
 山田 日清製粉グループの仕事をするのにもルールがあり、グループの仕事でも受注は他社との競争です。その方針づくりに私も参加しました。内部にこもり、外の社会で生き残れない会社ではよくない。グループの外に向けて技術力を研磨することがグループにとってはもちろん、日清ENG自身にとっても有効だろうと判断したからです。

 ――この40年間、グループ内でも独自の道を歩いてきた会社だ。
 山田 視線はグループの外へ向けていますが、当社の技術のベースにあるのはやはり日清製粉の粉体技術です。この粉体技術こそ当社の強みです。去年手がけた仕事の75%が粉体に関わるものでした。麦やとうもろこしを保管するサイロ、特に1本で1000tほど収容できる「大型穀物サイロ」の施工は、他のメーカーの撤退が相次ぎ、今では当社が60%ほどシェアを持つようになりました。直近の2、3年では70%のシェアを持ちます。
 サイロに保管する粉体の質や形状は変わらなくても、この40年間で設計方法はだいぶ進化を遂げました。安心安全を考慮した設計はもちろん、ムダを省いた構造にしなければユーザーに喜んでいただけません。私が学生の頃に勉強していたFEM(Finite Element Method、有限要素法)が設計には欠かせなくなり、シミュレーションを繰り返して納得のいくサイロを完成させています。

 ――粉体以外の近年の動向は。
 山田 総菜工場の建設に力を入れています。しかし、大手ゼネコンも“食品エンジニアリング”という専門の部署を新たに設けて参入し、生産設備や衛生対策に熟知した施工を発揮しており、競争が激しさを増しています。当社もよりよいものを提案していかなければなりません。そこで差別化できるのは、食品メーカーから誕生したエンジニアリング会社だということです。実際に操業するユーザーの意識やノウハウも盛り込んだ食品工場を手がけられるのが最大の武器です。製造を知っている人が設備を施工することでプラスアルファの価値が生まれます。

 ――施工のポイントは。
 山田 食品工場でエネルギーを多く使うのは空調です。グループの生産技術研究所では、空調の省エネ効果を診断するために模擬室を作り、実際に釜を炊き、エネルギー値など細かなデータを割り出しています。“空調の省エネが思うように進んでいない”、“加熱処理室が暑い”などの不安材料に気づいても、工場が完成した後では変更しようにも後戻りができません。そうならないためにも、事前に綿密な打ち合わせをして、割り出したデータを設計に生かしています。

 ――生産ラインで活かせるノウハウは。
 山田 食品工場を新設する際、少量多品種型の生産も念頭に置いた造りにしなければいけません。そのため製造者のトレンドとして、主力製品を一度に大量生産することで製造コストを抑えていたこれまでの連続製造プロセスから、工程間をコンテナ・ハンドリングにより分離・独立させることで製造方法にフレキシブル性を向上させる「並行バッチ製造プロセス」への転換が非常に注目されています。バッチ式と聞くと、多くの人は効率が落ちるだろうとイメージしがちでしょうが、必ずしもそうではありません。実は、私も館林工場長時代に並行バッチ式を強く薦めており、周囲と議論したものです。結局、私の意見を受け入れてくれましたが。

 ――今後の展望は。
 山田 3品(食品、医薬品、化粧品)+電池、これが最近の粉体の主たる需要先です。食品系も非食品系も両方大事です。一見かけ離れているようでも、食品分野で培った技術が非食品分野で活かされることがあり、その逆も然りです。このいずれもバランスよく成長させていきたいですね。また、粉体に限らず、総菜工場への働きかけも今まで以上に強化していきます。

(やまだ・ゆきよし)1947(昭和22)年9月14日岐阜県恵那市生まれ。73年東京工業大学大学院(機械工学修士課程)終了後、日清製粉に入社、生産技術研究所に配属。90年同所粉体研究室室長、粉体加工試験室室長。94年京都大学で博士号(工学)を取得した。95年日清エンジニアリング開発部部長、97年日清製粉館林工場長、03年日清製粉グループ本社技術本部長、08年から現職。

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2012年10月30日号掲載