「廃食油」をバイオマス燃料に再生
プラントのリースを食品工場に提案
森下社長
食品工場や飲食店から排出される廃食油がにわかに注目を集めている。世界中の航空会社がジェット燃料から廃食油を使った持続可能な航空燃料（ＳＡＦ）に切り替える動きが今後加速するとみられるためだ。国内でもニチレイや日清食品が安定供給者として、航空分野の脱炭素化に貢献することを表明している。
そんな中、廃食油を外部に提供するのではなく、廃食油からバイオマス燃料を製造して自家消費に回すことを提案する企業がある。
昨年３月設立のＭＭＰ��（名古屋市、森下勝之社長）は廃食油をバイオマス燃料に再生するプラント設備の研究開発を進めている。再生したオイルは清浄度（ＮＡＳ等級）や安全性、性能評価の全ての試験で高得点を獲得しているほか、プロトタイプを使った実証実験では重工メーカーからディーゼル発電機に十分活用できるとお墨付きを得ている。
こうしたエビデンス（科学的根拠）を取得したことで、同社は次のステップとして廃食油の排出量が多い冷凍食品メーカー向けにプラントのリース導入の提案をこのほど開始した。
全国油脂事業協同組合連合会の資料によると国内食用油の年間消費量は約250万tで、事業系の廃食油の発生量は約40万ｔで推移している。このうち９割以上が回収・精製されて国内では多くが飼料原料や石けん・塗料などの工業用に再利用されるが、ディーゼルやボイラーなどの燃料原料は約２％ｔにとどまる。一方で海外へは燃料原料として20％超が輸出されている。
ＭＭＰはこうした現状を変え、「廃食油の自家消費率を高めて再生可能エネルギーの地産地消をめざす」（森下社長）ことを目的に設立した。食品工場のカーボンニュートラルの実現をサポートする。
油水分離で不純物を除去
プラントの最大の特長は独自技術による「油水分離方式」を中心にバイオマス燃料を製造できること。揚げカスなどの不純物をろ過する「ストレーナ」は必要ない。油（上層）と水（下層）の２層に分け、下層に沈んだ不純物を水と一緒に排出することで、ストレーナが不純物で詰まったり、故障したりすることによる稼働停止を防ぐ。
油の種類や質によって投入する水の割合や温度は異なるが、技術責任者の有路友一ＣＴＯ（最高技術責任者）は「最適化するためのレシピは豊富にある」と強調する。メタノールは少量加えるが、従来の方式に比べてコストを抑えられる。
再生後の油の純度は高く、試験機関の分析によれば、汚染粒子の大きさを表すＮＡＳ等級は４級と新品のオイルよりも高いという。
分離後に油と水をエマルジョン化（乳化）する撹拌技術にも独自のノウハウがあり、油と水を微細化することで発熱量を高めている。有路氏によれば、ディーゼル燃料に使う場合の混合比率は最大50％（重油50％）、灯油であれば100％可能という。重工メーカーのＩＨＩからは高い評価を得た。
また、試験機関では一般的な鉱物油に比べて摩耗性が低く、切削性が高いことを確認した。これは機械の刃や羽根の劣化を抑え、節電効果が高いことを示す。土壌汚染のおそれがない生分解性が持続していることも実証できた。
従量課金方式を採用、導入ハードルを下げる
廃食油は一般的に廃棄物収集業者が回収して中間処理施設で再生するが、運搬コストや回収時のＣＯ２排出などの課題がある。ＭＭＰの事業モデルは食品工場がプラント設備を設置し、廃食油からバイオ燃料を製造して発電機やボイラー、車両などに利用する社内循環の仕組み。プラントは買取型ではなく、バイオマス燃料の製造量に応じて従量課金するシステムを採用し、導入ハードルを下げた。
バイオマス燃料を発電に利用した場合、１リットルで約５ｋＷｈの電力が見込める。大型の発電機で電力をつくれば、自家消費だけでなく、売電することで工場のコスト削減にもつながる。ＭＭＰは発電機メーカーとの連携も視野に入れる。
折しも政府は「カーボンプライシング（炭素課金）」の2028年導入に向けて議論を本格化する構え。食品工場は電力料金の高騰とＣＯ２排出量の削減という困難な課題を前に廃食油の有効活用が求められている。