システムの運用を軌道に乗せた１年
（一財）食品安全マネジメント協会 理事長 西谷徳治氏
（一財）食品安全マネジメント協会（JFSM）は、食品にかかわるすべてのサプライチェーンが直面する食品安全への取り組み強化と 透明性の向上、国際標準とのつなぎ役を担うため、食品安全管理の規格・認証スキームを構築・運営し、人材育成、情報発信を行う団体として2016年１月発足した。１年間の活動成果や今後の動向などについて西谷徳治理事長に話を聞いた。
西谷理事長
――発足１年目を振りかえって。
西谷 協会としての門構えが整って、活動が軌道に乗り始めた１年だったと思います。
事務所を開設し、事務局長以下スタッフを揃え、協会組織を運営できるようになりました。評議員会、理事会やスキーム委員会等のガバナンス機構の運営も軌道に乗りました。
協会が行う３つの主要な事業�ゝ�格、ガイドラインなどの作成��規格・認証スキームの運営��人材育成がそれぞれ一巡しました。
――規格、ガイドラインなどの作成については？
西谷 規格はA、B、Cの３段階で構成しています。
A規格は一般衛生管理を中心として基礎的な体制を整えたい事業者を想定した規格。
B規格は一般衛生管理に加え、HACCPを実施する事業者を想定した規格。
C規格は国際的に通用する食品安全マネジメントシステムの実施をめざす事業者を想定した規格。
C規格はグローバル認証をめざし、一足早く着手しました。７月にWebでC規格の規格と認証スキーム文書を公表し、８月には説明会を開催しました。認定・認証機関向けに１回、食品事業者向けに４回、東京と大阪で行いました。
A、B規格は10月に規格と適合証明プログラムを公表しました。こちらも９月には監査会社向けに、10月は１カ月かけて札幌から福岡まで10会場で食品事業者向けの説明会を開催しました。
また、規格を読んでも運用する組織が実際に何をすれば良いかわかりにくい面があるので、理解を助けるために規格解説書やガイドラインを作成しています。
規格解説書は各条項の目的や使用している用語で分かりにくい部分を解説しており、全規格一体で公表済です。
ガイドラインは規格を運用しようとする組織が具体的にすべきことについて説明しています。A、B規格のガイドラインは公表済。C規格のガイドラインについては１月中の公表になる見込み。
――規格・認証スキームの運営は？
西谷 規格を運営するには認定機関、認証機関、実際に規格を運用する企業など、プレイヤーが揃わなければなりません。
C規格に関してはグローバルなISOの仕組みに準じて運用しているので、認定機関は日本適合性協会（JAB）にお願いしました。認証機関は４機関を承認し登録しました。今年はあと２〜３機関増える見込み。運用組織は昨年、日清製粉の鶴見工場と知多工場が認証取得しています。新年早々にはさらに１社が認証取得する見込みです。引き続き、営業やPR活動を実施していきます。取得企業による事例発表会なども検討しています。
A、B規格は中小企業向けなので数的には大きく増えると期待しています。監査機関は既に３機関登録しました。2017年には５〜６機関増える見込みです。登録した監査会社が活動するには少し時間がかかりますので、監査して、適合証明を受けた組織はまだありません。自社でコンサルタントをした会社や自治体のHACCPを運用している企業などに提案していくとみられます。第１号の事例が出たら急速に広がるのではないかと期待しています。A、B規格の認定機関としての役割は協会自身が担うことになります。
――人材育成は？
西谷 食品企業や関係機関の人材の層を厚くすることは極めて重要です。協会としても重要事業として取り組みたいと思っています。
2016年は��C規格の審査員養成研修��A、B規格の監査員養成研修��食品企業の食品安全担当者セミナーの３プログラムを実施しました。規格を運用していくための初期人員の育成に注力しました。
セミナーは非常に人気があり、もっと開催してほしいとの声も挙がっていますので、引き続き対応していきたいと思っています。
これら３事業がこの１年でスタートし、こういう形で進めればいいというモデルができました。今年は拡大、強化しながら展開していく事になります。
「日本発」のメリットを最大限に
――グローバル対応のC規格をISO22000、FSSC22000など他の食品安全規格と差別化するには？
西谷 どの規格を運用するかは各組織が選択します。協会としては、農林水産省や食品業界の思いを汲んで始めた以上、C規格を選択してもらいたいし、選択してもらえると思っています。
これまでは日本の規格がなかった。輸出するためなど必要に迫られてISO22000、FSSC22000などを運用してきた組織が多い。大企業はそれらの規格が分りにくくても企業体力、応用力などがあるので運用できたが、本心は使いにくいと思っているようです。この使いにくいの裏返しが当協会のC規格のメリットだと思います。
――メリットとは？
西谷 まず、規格が日本語でできている。翻訳のわかりにくい日本語ではありません。わかりやすいし、なじみやすい。
次にスキームオーナーが日本にいるということです。例えばFSSC22000のオーナーはオランダ。日本にいる最大のメリットはコミュニケーションが良いこと。わからないことは麹町の事務所に来ればフェイスtoフェイス、日本語で相談できます。スキームオーナーが海外にいると、外国語でしゃべらなければいけない。
また、スキームオーナーの責任は認証業務が公平・公正に行われているかを監視することです。しかし海外のスキームオーナーは現場を容易に見に来ることができない。認定機関が業務をきちんと業務を行っていることを監視するため、報告書の提出を求める。そうすると全部外国語訳する必要があり負担になります。当協会は日本にあるので文書の提出を求める必要はありません。必要なら現場を見に行けば良いし、説明に来てもらえばよいのです。
最後に、規格解説書やガイドラインを用意していること。なぜC規格にあってA、B規格にない条項があるのか。C規格に記載している条項を実施すると設備投資が必要になり、中小企業には負担になるのでそれは求めない、人数の少ない会社で全ての記録を求めるのは無理があるので求めない、など、何故そういう構成になっているのか解説をしています。これらを用意しているのは非常に便利だと思います。
これらのメリットは必ず認識してもらえると思っています。
ただ、現時点ではGFSIの承認が取れていません。GFSIは世界の消費財業界メーカー・小売企業など650社以上で組織するTCGF（The Consumer Goods Forum）が運営する非営利団体で、食品安全にかかわる認証制度について、信頼性を評価し、承認する仕組みを提供しています。
GFSI の承認を受けた認証制度は「信頼に足る食品安全の認証制度」として世界中で利用され、FSSC22000、SQF、PrimusGFSなどと同等の規格とみなされるので、世界的に認められるには必要な承認です。それには10件の運用実績と当協会の運用がGFSIの基準に合っているかなどの審査があります。これが取得できればさらにメリットが増大します。
今後はイベントを開催するなどして、当協会の存在感をグローバルに示し、GFSI承認に向けた活動を本格化していく必要があります。
「和食」に適した規格づくり
――２年目を迎えますが、今後は？
西谷 このたび第１弾として発表している規格は食品製造加工分野です。食品の製造加工が顧客数が最も多くニーズが高いので、そこから始めましたが、食品安全に関わる分野は輸送、外食、ケータリングなどいろいろある。それらへの拡大を図りたいと思っています。外食、容器包装、物流保管に拡大すべく専門家に検討してもらっています。
また、公表しているガイドラインは食品製造全般についての内容となっています。これに加え、分野に特化したガイドラインの作成を考えています。ここで和食に馴染んだ規格をフォローする。分野別ガイドラインで和食らしさを出すべく、水産物、惣菜、みそについて、専門家に検討してもらっているところです。
――抱負をお聞かせください。
西谷 この事業は当協会だけでできることではありません。アンテナを高くして、理事会をはじめ、会員会社、認定機関、認証機関、監査会社、運用組織、全てのステークホルダーの声を聴き、知恵もいただきながら、日本の食品安全に対する信頼を、国内海外に高めていきたいと思っています。
（にしたに・とくじ）八幡製鐵（現新日鐵住金）1966年４月入社。2001年６月退職。在職中の2001年２月国際経営者協会（IMA）の理事に就任（現任）。日本検査キューエイ社長2001年６月。同社会長・相談役を経て2010年６月退職。2011年２月江橋・鈴木法律事務所に弁護士登録、2014年４月特定非営利活動法人ジェン(JEN)の理事（現任）。2016年１月食品安全マネジメント協会理事長に就任(現任)。東京都出身。東京大学法学部卒。1943年９月生まれ、73歳。