震災から5年、新たな商品で新たな販路開拓が必要に
八葉水産 常務取締役 清水勝之氏

 いかの塩辛の生産で日本一と言われた宮城県気仙沼市でも、3本の指に数えられる八葉水産(清水敏也社長)は東日本大震災で5工場2倉庫の全ての生産設備が被災したが、震災の年の11月から徐々に立て直し、3工場2倉庫にまで復旧している。

       清水常務

 主に原料保管と一次加工を行っていた冷蔵倉庫の一つは、1階が水浸しになったものの、2011年の暮れから塩辛を製造。今は元の冷蔵工場に戻している。充てん作業を行っていた松崎工場は、ほぼ屋根と骨組みだけになったが、しめさばのラインを確保して同年12月から稼働を開始した。大川沿いに建っていた旧第二工場は津波によって1階が浸水し、すべての生産設備が破壊されてしまったが、震災から1年後の3月本社・赤岩工場として復旧した。12年7月には赤岩第二工場が稼働を開始している。

 ――震災前と比べ、現状の生産状況は?
 清水 主力工場だった一番古い工場は津波のダメージが大きくて復旧できなかった。生産量は以前の3分の1から4割ほど。生産能力はそれ以上あるが、人手が足りず、販路も完全に戻っていない。
 ――生産設備より人手不足と販路が問題と?
 清水 震災前は外国人実習生が数多く気仙沼に来ており、従業員の1〜2割を占めていた。それが震災を境にいなくなった。外国人だけでなく、気仙沼市外から来ていた従業員も地元に戻ってしまった。気仙沼ではまだ土木建築関係の仕事もあり、新卒採用も厳しい。特に水産加工業はなり手が少ない。当社は食品メーカーなのだが、イメージとしては「水産加工」と思われている。今の従業員は営業を除き80名ほど。

「マヨいか明太子」など新商品に期待する

 ――働き手もそうだが、一度離れた販路はなかなか戻らないと聞く。
 清水 そこで、今年からは新しい商品を作り出していきたい。今までは塩辛のように酒のつまみや珍味が主だったが、惣菜のようなものも手掛けていく。昨年までは被災前の既存商品を復活させていたが、今年からは新商品を開発して、新たな販路を開拓する。
 ――既存の主力食品はいかの塩辛をはじめ、味付けめかぶ、いか明太、しめさば、味付けもずくなどだが。
 清水 今春、新製品の「マヨいか明太」、「マヨいかわさび」を発売開始した。それぞれ1パックのタイプと、3パックセットの2規格を揃えてみた。マヨいか明太子はパスタやポテトサラダなどと合わせてもおいしい。今までと違った販路が期待できる。

           本社工場

 ――震災から5年をどう感じる?
 清水 実際の復興はまだまだ。5年たったのでひと段落したように思われているが、企業だけでなく、住民だって被災している。売上げを戻すのはもちろんだが、働く人のことも考えれば、今後は町が活気を取り戻すことが大切。天皇陛下は東日本大震災の追悼式で「国民が心を一つにして寄り添っていくことが大切」と述べられた。この「寄り添う」ことが被災地が一番望んでいる事だと思う。
 ――市政に期待することは?
 清水 計画より遅れている部分もあるが、仕方がない面もあり、市はよくやってくれている。ただ、遅れることでマインドの部分というか、気分的なものが下がってしまうのをなんとかしなくてはいけない。活気をとり戻し、人が戻ってくる街づくりを願っている。