ヴォコレクトジャパンの音声物流システムが食品業界で広がりを見せている。特にここ1、2年で導入著しいのが食品卸の物流現場。食の安全や品質管理、賞味期限への対応など様々な経営課題の解消に貢献している。これを機に食品メーカーにも導入を働きかける。
内田社長
――ここ1、2年で、御社が手がける音声物流システムが食品業界で導入が進んでいる。
内田 特に食品卸で引き合いが高まっています。当社の音声物流ソリューション「Vocollect Voice®」の導入が進むきっかけとなった大手総合食品卸では、それまでの倉庫内作業は自社が構築した倉庫管理システムによる紙(指図書・伝票)とハンディースキャナーを使用していました。現場の課題として物流業務の精度の向上、熟練作業員と新人との業務遂行量の差を縮小する平準化、倉庫内作業のペーパレス化、コストの削減を挙げていました。
また食品を扱っているため、賞味期限管理の徹底や期限切れ品の誤出荷の防止、倉庫内作業員の労働環境の整備が大きな経営課題でした。そこでデジタルピッキングの導入を検討していましたが、新たな選択肢として音声ソリューションも加わりました。
――どんな検証、提案を?
内田 音声によるピッキング業務のトライアルでは、高い音声認識の精度により1次ピッキングで20%、2次ピッキングで30%という大幅な時間短縮と改善結果が得られました。デジタルピッキングがピッキング業務の対応だけであることに対し、音声ソリューションは入出庫や棚卸、棚移動など様々な業務に適応できる高い汎用性を備えていることが評価を受けました。
――その評価が導入につながった。
内田 トライアルを経て導入が決まりました。入庫、賞味期限管理、1次・2次ピッキング、出庫業務で音声ソリューションが活用されています。入荷業務では15%、1次ピッキング業務では10%、2次ピッキング業務では40%の生産性向上効果を上げています。賞味期限の入力作業でも、これまでは2、3時間要していた作業を音声により5分程度にまで削減するなど、大きな成果を挙げています。
このユーザーは業界団体の重責であり、自社の物流センターで見学会を開くなど、業界に向けて音声物流システムの成果をアナウンスしていただきました。こうしたことが後押しとなり、他の食品卸でも導入が進むきっかけとなりました。
――海外と日本の違いは?
内田 日本に法人ができたのが2006年。食品業界は当社の音声物流システムにとって基本的な代表事例であり、ここで通用するかどうかが日本市場での試金石でした。全世界の流通小売25社中21社で活用されているよう、大きな物流センターや店舗にケース単位で出荷するようなアプローチを、当初は日本でも展開していました。
しかし、日本の現場はとても繊細。卸の物流センターのように、複数社の製品をそれぞれの店舗向けにバラで扱い、しかも安全安心を担保しなければならず、非常に神経を使います。しかし、バーコードを通すなどの操作は生産性を向上する際の足かせにもなりかねません。
――ユーザーは作業生産性と正確性を両立させたい。
内田 どう日本向けに提案すればいいのか――。“音声”を使った技術には自信はあったものの、初めの頃は紆余曲折です。そこで日本独自の音声物流システムの活用法が誕生しました。音声指示によってある程度の正確性を確保し、検品者の負荷を減らします。その上で検品はバーコードを使うというものです。海外では音声システムを導入した現場では、スキャンニングをしないユーザーが大多数ですが、日本では音声とスキャンニングを併用するケースが半数近くになります。日本人の器用さと勤勉さの性格に合っていたのか、スキャンニングと併用しても作業生産性の向上率は、海外と比べても遜色のないものとなっています。
海外で培ってきたものを日本向けにアレンジしなければならない――。これもユーザーの現場に入り込んで、私たちも勉強し、相談させていただいた結果、構築することができました。“こうしたほうがいいのでは?”とユーザーからも声をいただきました。答えはまさにユーザーの現場の中にあったのです。
――ユーザーとの関係性は?
内田 海外に比べて、日本では音声物流システムはまだ始まったばかり。それゆえユーザーも他の現場での活用法や成果など気になっているところだと思います。そこで「Vocollect Voice®」を導入している国内の30社、50施設を超えるユーザーと、その構築を担当したパートナーで構成する「ヴォコレクト・ヴォイス 日本ユーザー会」が昨年2月発足しました。各ユーザーの構築経験や利用実態、改善効果、評価指標などを情報交換して様々な業態での音声ソリューションの活用方法を研究するのがねらいです。
当初の予定より早い段階でユーザー会が発足しましたが、結果的にこのタイミングで良かったと思います。音声システムという先進的な技術を取り入れる企業は、高いパイオニア意識を持っています。意見もしっかり持っており、発言も活発で、直接的です。当社にとってもいい刺激となります。ユーザー会と良い緊張感を保ちながら、ベンダーとしてより高機能な製品を提供し続けます。音声物流が本格的な普及期を迎えることを確信しています。
食品業界では卸を中心に導入が進んでいますが、これを機にメーカーや流通小売の現場にも働きかけていきたいと思います。