生産管理システム導入で原価を把握
 自社ブランドを武器に、攻めに転換

 医食同源をテーマに野菜加工を手掛ける(株)オーピーシートレーディング(茨城県水戸市、鈴木学社長)。2年前のM&Aの後、抜本的な業務改革に着手するが、課題は山積していた。コンピュータシステムを活用して生まれ変わった同社の取り組みを取材した。

鈴木社長(写真右)と青柳専務

 「原料の価格変動が製品の原価計算にスムーズに反映されず、日々の損益把握が困難でした。野菜の相場や歩留まりで製造原価は大きく変わります。気が付いたら赤字だった、ということもありました」。青柳稔専務はこう打ち明ける。
 茨城県水戸市でカット野菜を中心に野菜の加工を手がける同社は、県内で最初に農商工等連携事業計画の認定を受けるなど、技術力には定評がある。2012年10月、調剤薬局を展開する(株)ベルクラン薬学社のグループ企業となった。オーピーシートレーディングの野菜加工技術と薬学分野におけるノウハウの組み合わせによるシナジー効果を狙ったM&Aであった。しかし――。
 創業社長から事業を引き継いだ途端に壁にぶつかる。新経営陣が求める、製造現場の情報がなかなか上がってこなかった。

 現場が見えない。薬局では毎日報告させている在庫、原価、損益を、工場ではなぜ報告できないのか。「現場は当たり前のことを当たり前にできていませんでした」と、青柳専務は当時を振り返る。「創業から30年以上、前社長がほぼすべての業務を1人で切り盛りしてきました。原料となる野菜の買い付けから生産管理、製造、クレーム対応、営業まで、職人気質の前社長が隅々まで目を光らせることで工場がうまく回っていたのです」。
 しかし、前社長の引退によって様々な問題が一気に表面化したという。「製造予定表が手書きのため転記ミスが発生したり、原料発注漏れで当日製造に必要な原料がなかったり。原材料の価格変動を製造原価に反映できないため、適切な売価設定ができず、売上げが伸びるほど赤字になることも。また、賞味期限切れの原料が冷蔵庫に眠っていて無駄な電気代がかかっていたり。今考えるとあり得ない問題が山積していました。業務の標準化、工場の見える化、データの一元管理など課題は明確でしたが、プログラムの開発ができる鈴木新社長にはその余力が全くありません」(青柳専務)。

 そんな時に出会ったのが、(株)ローゼックが開発する食品製造業向け生産管理ソフト「クラフトライン」だった。
 中小規模の工場向けに開発された同システムは生産やトレーサビリティ、販売、在庫、受発注などの各管理システムに加え、ロットごとにリアルタイムの原価計算ができる。製造原価が標準原価と乖離したら即座に警告を発してくれるので、“気が付かないうちに赤字の仕事をしていた”というような事態が避けられる。「先日も1件赤字警告が出てしまいましたが、すぐ原因を確認することができました」(青柳専務)。
 製造原価計算の元になるのは、原材料費と作業費、間接費。「当社では現場の作業員1人1人が自らかかった時間を日報に記録しています。これは前社長が残してくれた貴重な財産。以前は記録するだけで終わっていましたが、今はシステムに入力して原価計算に活用しています。原材料は実際の仕入金額を反映したロット別在庫管理を行っています。製造日報に投入ロットや使用量を記録してはいますが、コンピュータには入力していません。先入先出に基づいた理論値を自動的に引落すことで、原材料費を原価に反映させています」(青柳専務)。
 システム稼働後半年ほどは、青柳専務が中心となって動かしたが、現在は青柳専務の手を離れ、2名体制で業務を担当している。1人は新規雇用したパートタイマーの女性。もう1人はM&A前から引き続き働いている、現場一筋だった男性。事務業務は未経験だったが、現在は受注から購買まで任せられるようになった。取引先からは会社が明るくなったと言われる、という。

 「医食同源で新たなビジネスシーンを創出したい」という鈴木社長の強い思いを実現するため、次のステージに向けて全社が一丸となっている。現在は受託製造が中心だが、薬学のノウハウを生かした自社ブランドを立ち上げるという、M&A当初のねらいに向けてスタートラインに立っている。同社の挑戦は始まったばかりだ。

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2014年12月3日号掲載