施設や設備の総合的なサービス・ソリューションを提案している中央設備エンジニアリング(名古屋市西区)は特に食品工場の設計・施工を得意としている。東京本店企画設計積算部の野々村和英部長は「食品工場で特に気をつけたいのは空調だ」と強調する。
工場全体や生産ラインの構築に多くの実績を残している裏付けには、ユーザーと設計者・施工者の意識統一が欠かせないという。
野々村部長
「食品工場の加熱調理室などの多量火気使用の居室は、夏場かなり高い温度になっている。この問題を克服するには空調設備の力が不可欠」と野々村部長。そこで同社は加熱エリアの居住域の温度を改善する「置換換気(空調)方式」を提案している。新鮮な空気を低風量でゆっくりと室内に流すのがポイント。スタッフが活動する辺りに新しい空気を供給する。
低温の風の構造体に沿って動くという性質を活かしている。床上や壁に沿って低温の風が漂い、室内の加熱源で暖められた空気は上方へ移動する。スタッフのいるスペースは低温を保つ。「もともと欧州で発達している技術。例えばホテルのロビーなどの大空間にも活用しており、普及している。どういうわけか日本では普及していない」。同社は、日本の食品工場にこそ導入すべきものだと提案している。
日本の空調方式は「全体空調」か「スポット冷房」のどちらか。「全体空調」は室内全体を空調するため膨大なエネルギーを必要とする。空調空気を行き渡らせるために室内の空気を撹拌するので、ドラフト感を感じる。「結局、エネルギーを捨てているようなもの。効き目がない。給気した新鮮な空気が室内の汚染された空気と混ざってしまい、何のための空調かわからない」と指摘する。
「スポット冷房」は、作業スタッフが居るところのみに冷風を当てる。「冷風が常に当たっていると、体の正面はかなり暑いのに、背中は冷たいなど体調を崩す原因にもなる。ここで自分が働いても大丈夫、と言える空間を造っていきたい」と野々村部長は語る。
「置換換気方式」が実績を上げている導入案件に製餡工場がある。製餡工場の作業室(ボイル工程、加熱工程)で蒸気の排熱の効率が悪く、夏期の室内温湿度が非常に高い工場から「スポット空調吹き出し口を各所に設置しているが、効果がない」という問い合わせに対応した。
製餡工場は通常の業務用の厨房と比べても、かなり大きい釜を扱い、大量の大豆を煮る。とにかく熱い。大豆を釜に入れる際に使うホイストとレールが上部に施してあるので、フードを備え付けることができない。そこで居住域の空調だけを考える「置換換気方式」が最大限に活かされる。
名古屋エアケータリング機内食工場
食品工場は熱を扱うエリアの温度と労働環境が問題となる。鍋・釜・フライヤーで囲まれたスペースは測定温度で40℃〜50℃。体感温度はそれ以上になる。季節変化も追い打ちをかけ、夏は熱いだけで済むが、冬は足もとが寒く、輻射熱で体の前面は熱いという過酷な環境になり、ラインスタッフの体調を崩す要因を助長している。
「欧州と違って、日本の場合は作業スペースを規定する基準が進んでいない」と野々村部長は指摘する。例えばドイツでは、DIN規格で給食施設は室温D╱B28℃、相対湿度RH70%以下にするという「権利」をラインスタッフは勝ち取っているが、日本にはそのような動きはない。「欧州の工場労働環境の考え方は進んでいる」という。