段ボールの賞味期限印字ならお任せあれ
山崎産業 「U2mobile」
(Japan Pack Awards2011 審査委員長賞 受賞製品)

 「重たい、大きい、インクが垂れる」ため、ハンディタイプのインクジェットプリンターは今まで実現しなかったが、その課題を克服した印字機が誕生した。山崎産業の「U2mobile」がそれ。ユーザーの大半は食品工場。入荷時にも、出荷時にも「引っ張りだこ」という。

「U2mobile」で段ボールに印字
軽量なため、特別な力は必要ない

 PCのプリンターで使うようなカートリッジはヘッドが左右に動く。それを手で動かしているとイメージするとわかりやすい。「U2mobile」はその母体となる「U2」の完成がなければ生まれなかった。
 「U2」は段ボールやクラフト袋など浸透性のあるものに、賞味期限や製造年月日、ロット番号などを印字するインクジェットプリンター。ITFやJANコードなどのバーコードの印字のほか、付属の専用ソフトウェアをPCにインストールすれば、商品名などを含んだデータも編集できる。
 コントローラーやスクリーン、プリントヘッド、インクカートリッジなど必要なものすべてを小型の本体に搭載している。本体の寸法は高さ76mm×幅114mm×奥行き60mm、重量は490g。一体型のプリンターとしては世界最小、最軽量という。
 と、説明ならば淡々とできるが、その完成は長らく待たれていた。「PCで使うようなカートリッジ式のプリンターを、パッケージの用途など製造現場で使用する時代ではありませんでした。考えもしなかったことでしょう」と北尾義嗣営業部長は開発当時を振り返る。

 事務機のプリンターメーカーはたくさんあるが、このカートリッジを使った方式で段ボールに印刷する機械は手がけてこなかった。しかし、「事務機以外の業界にもカートリッジの活用が待たれている」と考えたヒューレッドパッカード(HP)がようやくパッケージ業界で使えるようなカートリッジを少しずつ供給し始めた。2000年のことだった。
 「この年が転機となりました」(北尾部長)。その流れに乗った同社はインラインで使う段ボール用のインクジェットプリンターを開発。しかし、現在の「U2」と比べても、ずっと大きいものだった。目指すは最小、最軽量化。

「U2mobile」のほか、同社ではバーコードなど必
要な情報を鮮明に印字する機械を様々扱っている

 プリンターに必要なすべての機能を搭載しながらも、超小型ボディにこだわった「U2」が2010年に完成する。
 解像度300dpiのプリントヘッドにより文字や記号、ロゴ、バーコード、2次元コードなどを鮮明に再現できる。この能力に最も関心を示したのが食品業界。トレサビで印字情報の重要性が当然のようになってきた時代、それまで業界が使用してきたものはドットが粗いもので、文字も決して鮮明ではなかった。テンキーだけでは入力できなかった漢字も、「U2」では印字できる。「誤った印字情報が致命的となる恐れがある」と判断したコンビニのベンダーや冷食メーカーなどを中心に「U2」導入が相次いだ。14万8000円という低価格もユーザーの導入を後押しした。

北尾部長

 これに手応えを感じた同社は手で持つことができ、いつでも、どこでも印字できるプリンターを思い描く。それが「U2mobile」。「U2」にハンドルとローラー、バッテリーをつければ出来上がり。軽さにももちろんこだわり、1kg以内に抑えて完成させた。本体が軽量だからこそ為せる業。これなら、パートタイムの女性でも簡単に扱える重量だ。
 昨年納入を始めたが、「滑り出しは順調」という。出荷時だけでなく、「入荷時にも重宝している」と同社の想定以外の利用法をユーザーが教えてくれたこともあった。不規則に入荷してくる原材料にシールを貼って対応していたユーザーが、「U2mobile」を使ってすばやく印字。自由に動ける“ハンディ”の強さを存分に活かしている。
 「インク入りのカセットヘッドなので誰でも簡単に新しいプリントヘッドに交換できます。何かあった際、ラインを止める必要がなく、現場で解決できる点も受け入れられています」と北尾部長。「全国どこの工場に行っても、いつでも使用されているような“スタンダード品”となれるよう働きかけます」と期待に胸を膨らませている。