チキンミンチの品質を数値化、ＴＡＴＳコーポレーション
冷凍食品のチキンハンバーグ等の原料に使われるチキンミンチ（米国ではメカニカリーセパレーテッドチキンミート＝ＭＳＣと呼ぶ）は、一般的には若鶏の鶏ガラや、廃鶏の丸鶏を骨肉分離装置にかけて取り出す。しかし、その品質に関しては評価基準がない。メーカーによっては歩留まりが10％近く異なることもある。当然、ハンバーグなどのコストや品質にも大きく影響が出る。しかし、損をしないチキンミンチ選びがあるという。
同じ骨肉分離装置で作っても歩留まりが10％異なる例が
石井社長
骨肉分離装置の輸入・開発・販売を手掛けるＴＡＴＳ（タツ）コーポレーション（千葉県船橋市）の石井達雄社長は「品質は基準によって評価すべきもの」と、独自にチキンミンチの品質判定方法を確立し、業界のレベルアップに役立てている。
石井社長は「加工原料のチキンミンチの本当の品質は数値で表せるし、見てもわかる。それは価値を作っているのか、ムダを買っているのかを知ることにつながる」と語る。
品質の判別には４つの検査を行っている。
加熱歩留りは、実際にミンチを焼いて、肉固形分がどれだけあるのかを量る。歩留りは最優先の評価基準と位置付けており、ブロイラーガラ原料のミンチの歩留りは通常58〜63％で、65％以上が良好なミンチと捉える。
まず焼いてみる
検査はミンチをホットプレートで焼くというシンプルなもの。ミンチ100ｇに何も加えず、油をひかずに焼く。焼く時間は決めず、食べられる状態になるまで焼くのがポイント。焼いた肉は結着状態、味や香りの官能テストを行う。
焼成テスト
遠心分離にかけ
２つ目の検査は遠心分離。蒸留水を加え毎分3000回転で20分処理すると、脂肪、水、血液沈殿量、肉固形分の量がわかる。
３つ目は「熱湯検査」。ミンチ200ｇに500�佞稜�湯を注ぎ、肉繊維の大きさ、形状、脂肪や血液のバランスを見る。
４つ目は骨片。ミンチをオキシドール（過酸化水素水）と水酸化ナトリウムで溶かし、骨片、骨粉を分離する。骨は異物の対象になるので、ふるいをかけ、２ｍｍほどの大きさの骨片が数個出たら評価が低い。骨粉は100ｇ中0.3ｇ以下が望ましいという。
遠心分離機
遠心分離テスト、見た目だけでも肉固形分、血液、水分、脂質分がわかる
熱湯検査、肉質などを見分ける
一目でわかる差
記者が立ち会った検査では３メーカーのチキンミンチを検査した。いずれも米国製骨肉分離機「ビーハイブ」を使っている工場で生産したものだそうだが、品質はまさにバラバラ。
加熱歩留り検査では、Ａ社のミンチはハンバーグのように厚みを保って焼き上がるが、他の２社は鉄板に広がり、まるでもんじゃ焼き状態。血液や水分が多いためで、官能検査では悪臭を感じ、食感はぼそぼそとして結着状態も悪い。
遠心分離では固形分が多く、血液と脂肪が少ないものがいい。
熱湯検査でも３メーカーのミンチには一目でわかる違いがあった。
なぜ違いが出る
なぜこれほどの違いが出るのか、原料の鶏ガラの違いなのか？ 石井社長によれば「ミンチの製造段階によるところが大きい」という。
鶏ガラを骨肉分離機に投入する前の”と体冷却チラー”で水分を抱きこむことが細菌数と水分量に影響する。歩留りを気にして機械を操作することで、骨から骨髄を多く絞りだしてしまい、ミンチを臭くする。
骨肉分離機の刃に当たるスクリーンが切れなくなると骨片が増える。
鶏ガラを骨肉分離機に投入するペースも重要で、無理に押し込めば肉繊維が細くなり、品質は悪くなる。
品質の良かった十文字チキンカンパニーのミンチは、同じ「ビーハイブ」でも本体のモーターと、鶏ガラを押し込む部分のモーターがそれぞれインバーターで制御でき、原料の状態に合わせた稼働ができるように改造してある。この仕組み「ＴＡＴＳマスター」は石井社長が開発した。
「何より一番大切なことは、会社としてどんな品質のミンチをつくろうかという概念の有無による」という。
これほどの違いがあるのに、ミンチの価格は「運賃の違い程度しかない」（石井社長）とも指摘する。
１日に何トンも鶏ミンチを使う冷食工場などは、歩留まりが５％違えば原価に大きく影響する。
ＴＡＴＳコーポレーションは業務として品質検査を引き受けており、某大手ハムソーメーカーは検査結果を基にしたアドバイスを受け、複数の仕入れ企業のうち品質が下位の３社を他社に切り替えるなどにより効果を挙げているという。しかし、一般には品質検査をしている食品メーカーはまだ少ない。
石井社長はチキンミンチを製造する十文字チキンカンパニーの顧問を務めている。ミートボールで知られる石井食品の創業者の次男でもある。それだけにミンチへのこだわりは強い。
「食品工場は、衛生検査はしても品質検査はしない。品質についてもそれぞれの工場が設定すべきでしょう」と提唱している。