生シラス、プロトン凍結で鮮度維持、流通拡大に期待
にんべんいち

 シラスを加工販売しているにんべんいち(茨城県大洗町)は、食品の細胞を壊すことなく凍結して解凍時のドリップ量を減らすプロトン凍結機「ユースフル・フリーザー」(菱豊フリーズシステムズ製)を昨年夏導入した。これにより鮮度の高いシラスの加工が可能となったため、生シラスの販売も本格化させた。広範囲の流通拡大に期待を寄せている。

 大洗は秋シラスの季節を迎えている。秋シラスは1年の中で最も質が良く、身がしっかりしており、透明でプリっとしている。

本社外観

 同社はシラス干しや創作ちりめんを中心に加工販売しているが、近年、生シラスの需要が増えていた。「生シラスを大洗以外にも流通させたい。お土産としても売り出して、名物として定着させたい」(坂本富計社長)とし、鮮度が良い状態で売り出せないかと手立てを考えていた。そこで出会ったのが漁業・異業種連携ビジネスプラン助成事業が後押しとなった「ユースフル・フリーザー」だった。

 同機を使用すると、通常の冷凍と違い、凍結時に電磁波と磁力を平行に当てることができる。これにより、氷の結晶の形成を極限まで小さくして、原料の細胞破壊を防ぐ。通常の冷凍では、氷の結晶によって細胞が破壊されてドリップが流れてしまうが、プロトン凍結では、細胞が壊れていないためドリップもほとんど出ず、食感もそのまま残り、生の状態を最大限まで引き出すことができる。「魚の白身に効果を発揮している。鮮度はもちろん、味にコクが出る」と坂本社長は凍結機の働きに満足している。

ユースフル・フリーザー

選別工程

 大洗魚卸売市場は9時45分頃からセリが始まる。坂本社長がセリに出向くが、シラスは鮮度が命。加工場は市場から車で10分弱の場所にあるが、せる前のものをあらかじめピックアップしておき、高鮮度の生シラスを搬送担当者である坂本貴英常務などに引き渡す。すばやく搬送し、加工場に到着する。坂本常務は加工場でも、生シラスを受け入れる準備を中心となって進めている。
 運んできた生シラスを電解次亜水で流水洗浄して滅菌する。水切りして、6〜10人ほどでコマセアミ、カニの稚子などの異物をピンセットで検出する。その後、100gトレイで計量し、−45℃の温度で25分以上急速凍結する。

生シラスを凍結

 昨年は秋漁のみで約4万パック(1パック=100g)を製造し、今年の春までにその全てを売り切った。メインのシラス干しと同時進行で製造しているため、時間も生産量も限られており、現在は県内や近県でほぼ消化されている。「急激な生産量の拡大は難しいが、販路をより広い地域に拡大させたい。秋漁の本格化とともに、良質な生シラスを継続的に提供できる土台を築きたい。その意味でも今年は大事な年となるだろう」(坂本社長)と語る。

 凍結機の導入を機に加工場のレイアウトを変更、自社検査室を移設した。ペトリフィルム培地やインキュベーターを使って、食品中の菌の状況を検査している。「生シラスを販路拡大させるために、安全安心はこれまで以上に徹底させたい。いずれは検査要員をさらに増やし、『プロトン凍結生シラス』の販売を軌道に乗せ、全国のみなさんにいつでも最高品質の大洗の生シラスを食べていただきたい」(坂本常務)と意気込んでいる。

創作ちりめんもここ数年引き合いが高まっている
(写真は人気の梅ちりめん)

坂本貴英常務

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2010年9月1日号掲載