日本の厨房機器技術は高い水準を誇っているが、作業者がより安心して利用するためにはまだまだ改良の余地があるという。関東厨房機器協同組合の理事長を兼ねる上野製作所の上野秀雄社長は「若い世代や新たに厨房業界に身を投じる技術者が増えることを期待し、ともに盛り上げていきたい」と語る。
上野社長
――組合の活動状況は。
上野 昨年創立50周年を迎えましたが、共同購入や共同受注など組合員の事業を手助けするという創立当初の理念も形が変わってきました。この50周年を機に協同組合のあるべき姿をもう一度よく考えなければいけません。
――変貌を遂げたというと。
上野 現在の会員数は40社、しかしピーク時は70社ほどで構成していました。組合員の中には力をつける厨房メーカーもありますが、廃業に追い込まれたメーカーもあるなど差が出てきました。ともに業界の発展を考える仲間が増えるといいのですが。
――新規参入が難しい業界?
上野 調理施設のレイアウトや製造、設置、施工などをトータルで手掛ける、いわゆる“総合厨房”は難しいものがあります。大手ゼネコンも“食品エンジニアリング”という専門の部署を新たに設けて参入し、生産設備や衛生対策に熟知した施工を発揮しており、競争が激しさを増しています。しかし、厨房機器自体は開発の余地があります。食の安全安心は今まで以上に問われており、まだまだ到達点ではありません。
――開発の余地あり、力強い言葉だ。
上野 環境配慮や省エネを推進する厨房機器の開発はもちろん、何よりも使用者が安心して利用できる機器を普及させることが、当業界が果たすべき社会的役割です。この技術力を武器として国産の厨房機器を海外に進出させ、産業を振興させる力にも期待が寄せられています。
――安心して利用できる機器というと?
上野 その一つが“涼厨”です。夏の調理場はとにかく暑く、何か対策をとらなければ調理スタッフにとって酷な作業環境となってしまいます。しかし、ガス会社と厨房機器メーカーが共同で開発している涼厨は“ガス機器は熱い”、“ガス厨房は暑い”、というイメージを一新。高温になる釜の周囲は空気層を作って断熱、燃焼排気は排気筒から集中排気することで、厨房内への拡散を防ぐ仕組みを提案しています。
――震災以降、電力供給の不安感が高まったのと比例して、ガス機器に対する関心も高まっている。
上野 厨房のオール電化仕様は選択肢の1つとして変わりませんが、震災以降、電力供給に何かあったとき困るのではないか、と感じているユーザーも少なくありません。“オールガス仕様”というのは不可能なため、ガス会社では従来通り、ガスと電気のいいとこ取りを提案する方針に変わらないとのこと。私たちメーカーも機器に磨きをかけ、ユーザーが納得し、安心して利用できるよう働きかけていきます。
――今後の展望は。
上野 今年、私は組合の理事長であるとともに、日本厨房工業会の関東支部長、総務委員長など役職が重なったこともあり、会員の皆さんにはご迷惑をおかけしているかもしれません。しかし、業界の現状と将来を真剣に考える機会を得ることができ、いい経験をさせていただいています。
上野製作所としても、厨房設備機器展(日本厨房工業会主催で毎年2月開催)に10年ぶりに出展しました。今年完成した洗浄水生成器など、この10年間で開発した新機種を来場者に披露することができました。厨房機器はまだまだ開発の余地があります。我々が元気なところを見せるのはもちろん、若い世代の参入を期待し、ともに業界を盛り上げたいですね。