厨房が抱える課題をスマートに解決
キーワードは「インテリジェンス」
スチームコンベクションオーブンの世界最大手、ＲＡＴＩＯＮＡＬ（本社ドイツ）グループの�螢薀轡腑淵襦Ε献礇僖�（東京都千代田区、赤井洋社長）はスチコンと多機能加熱調理機の新製品を今年相次いで発売した。業務用厨房のデジタル化を後押しするインテリジェンス機能を拡充し、生産性向上や消費エネルギーの削減、品質の標準化を実現する。
新型スチコン「ｉＣｏｍｂｉＰｒｏ」（右）と「ｉＶａｒｉｏ」、写真はいずれも小規模レス
トラン向けの卓上型
赤井社長は都内本社で行った発表会見で「この２つの新製品があれば調理プロセスの９割以上をカバーできる。どのような料理でもおいしく作れる」と自信を見せた。
新型スチコン「ｉＣｏｍｂｉ（アイコンビ）」シリーズは５月発売した。自動調理機能を搭載した「ｉＣｏｍｂｉ Ｐｒｏ」のほか、マニュアル調理を基本とした熟練者向けの「ｉＣｏｍｂｉ Ｃｌａｓｓｉｃ」をラインナップした。
生産性を上げながら省エネを実現
「Ｐｒｏ」は４つのインテリジェント機能を持つ。「ｉＤｅｎｓｉｔｙＣｏｎｔｒｏｌ」は庫内の空気循環と除湿を効率的に行うことで加熱効率を高める。稲田康宏プロダクト・マネージャーによれば「従来機種に比べて調理時間を約10％短縮し、エネルギー消費量は最大10％削減。そのうえで生産性は約50％向上する」という。
「ｉＣｏｏｋｉｎｇＳｕｉｔｅ」はスタッフの調理技術に左右されない自動調理機能を持つ。画面操作で焼き色や火の通り具合などを設定するだけで、庫内に搭載したセンサーが料理のサイズや量、状態を認識し、さらに調理の進行状況を計算しながら温度、風速、調理時間などの調理パラメータを調整する。これによって個人の調理能力に依存することなく、高い品質を保つことができる。調理の状態を何度も確認する必要がなくなり、作業効率の改善につながる。
「ｉＣｏｏｋｉｎｇＳｕｉｔｅ」は画面操作で焼き色や火の通り具合などを設定するだけで、
システムが温度、風速、調理時間などの調理パラメータを調整する
「ｉＰｒｏｄｕｃｔｉｏｎＭｎａｎａｇｅｒ」はソテーやスチーム、グリル、フライなど複数の料理を作る際に要する段取りの手間と時間を短縮する。ディスプレイ上に料理のアイコンを配置するだけで、何を一緒に調理できるかが確認できるほか、目標時間を設定すれば、そこに合わせて複数の料理を同時に仕上げることができる。
調理システムが各ラックを個別に監視し、料理の量やドアの開閉まで考えて調理時間を調整する。「使用するエネルギーを最小限に抑えながら調理したい場合も簡単操作で調整できる」（稲垣マネージャー）という。
「ｉＣａｒｅＳｙｓｔｅｍ」は自動洗浄システム。最短12分の高速洗浄機能があり、味移りや匂い残りの心配なく、すぐに次の調理に取りかかれる。１日の作業の終わりには庫内の汚れの程度を教えてくれる。そこで標準洗浄かエコ洗浄かを選ぶことができる。
ラショナルは環境に配慮してリン酸塩を含まない固形洗剤を開発した。リン酸塩が増えると、水環境の富栄養化や藻の過剰繁殖を引き起こすと言われる。新開発の洗剤は使用量も従来に比べて約50％削減する。
「ｉＰｒｏｄｕｃｔｉｏｎＭｎａｎａｇｅｒ」はディスプレイ上に料理のアイコンを配置して
目標時間を設定すれば、同時に完成させることができる
特許技術の加熱システムを搭載
多機能加熱調理機「ｉＶａｒｉｏ（アイバリオ）」は煮る、焼く、炒める、揚げる、茹でる、圧力調理を１台でこなす。世界で４万台の販売実績を持つ。日本国内向けに８月発売した。ラインナップは「Ｐｒｏ」と小さなキッチン用の「２-ＸＳ」。
新型スチコンと同じ「ｉＣｏｏｋｉｎｇＳｕｉｔｅ」のほか、加熱調理機ならではの独自機能を２つ持つ。「ｉＶａｒｉｏＢｏｏｓｔ」は最適な温度管理とエネルギー管理を行う。最大の特長は耐久性があって傷に強い高性能スチール製のパン底と、独自のセラミックヒーター（特許技術）を組み合わせたこと。素早い昇温と均一の熱伝導を可能にした。
パン底には多数の高感度センサーを搭載し、温度を毎秒測定しながら１℃単位で制御できるため、エネルギー消費を抑えながら、高品質に仕上げる。２分半以内に200℃まで加熱し、パスタ15�圓覆�22分でゆで上げる。
「ｉＶａｒｉｏ」はバスケットを自動昇降するオートリフト機能を標準搭載している
「ｉＺｏｎｅＣｏｎｔｒｏｌ」はパン底を最大４つの加熱ゾーンに分割して、食材のサイズや位置、形状に応じて加熱温度をゾーン別に設定することができる。
これによって１つのパン底で、異なる食材を同時に調理したり、同じ食材でも時間をずらして調理したりすることが可能になり、多品種少量のメニューも効率的に提供できる。
「ｉＶａｒｉｏ」は従来のボイルパンに比べて消費電力を40％削減するほか、従来モデルの「Vario Cooking Center（バリオクッキングセンター）」に比べて炙り能力を最大20％向上した。メンテナンスフリーの圧力調理をオプション装備すれば、圧力をかけずに加熱調理する場合と比較して調理時間を最大35％も短縮する。
赤井社長は「特許技術による加熱パワーやスピードは他社を圧倒する」と性能の高さを強調する。
「ｉＶａｒｉｏ」はパン底を最大４つの加熱ゾーンに分割して、加熱温度をゾーン別に設定
することができる
スチコンの生産台数、累計100万台に
ラショナルグループはスチコンを世界で初めて1976年に開発した。これまでに世界120カ国の厨房に採用され、累計の生産台数が昨年100万台を突破した。記念すべき100万台目は独ミュンヘンにある世界最大のビヤホール「ホーフブロイハウス」に採用された。
赤井社長によれば、業務用厨房は世界に約1000万カ所あり、このうちスチコン市場は約400万カ所あるという。同社グループは年間６〜７万台を販売し、約12％のトップシェアを獲得する。海外ユーザーはレストランやホテル、ケータリングで８割以上を占める。
一方で国内市場はスーパーマーケットがコアターゲット。「他メーカーからの切替えを含めて、スーパーの大半が当社のスチコンを採用している」（赤井社長）。半面、給食やケータリングなどは弱いという。国内の食品工場のエンジニアリングは大手ゼネコンが建物から設備まで請け負うことが多く、厨房機器メーカー１社で食い込むのは難しい。
だが、コロナショックを受けて、赤井社長はターゲット領域をこれまで弱かった業種にも広げる考えを示す。
「テイクアウトやゴーストキッチン、旅館、フルサービスのホテルに加えて、病院・老健、保育園、ベーカリー、給食・ケータリングの分野を積極的に攻めていく」。