持続可能な水産養殖を実現
ウミトロン�蝓ゞζ荏篭伴� 山田雅彦氏
プロダクトマネージャー 斎藤悠貴氏
山田氏（右）と斎藤氏
ウミトロン（東京都港区、藤原謙社長）は「持続可能な水産養殖を地球に実装する」ことをミッションに掲げるベンチャー企業。テクノロジーを活用し、海の持続可能な開発と水産資源の安全・安定供給の実現をめざす。
現在の主軸事業はスマート給餌機「UMITRON CELL（ウミトロンセル）」。スマートフォン操作により遠隔管理を可能とし現場作業を軽減する。常に摂餌状況を確認できるため、給餌効率の改善と環境負荷低減が期待できる。また、生育情報をデータで蓄積することで業務プロセスの体系化、生産ノウハウの伝承、生産現場の見える化によるトレーサビリティの向上につなげる。給餌時の食いつき具合もピンポイントで再生可能。改善プロセスを促進する。
共同創業者の山田雅彦氏と養殖現場でのテクノロジー実装を推進する斎藤悠貴プロダクトマネージャーに同社の強みやビジョンを聞いた。
――ウミトロンの強みは
山田 新しい機能をいち早くリリース（公開）し、養殖生産者に試してもらうこと。そして、リリース後も現場の意見を取り入れ、都度改善できる開発体制を整えていることが強み。当社の主観でみた完成度にこだわるのではなく、まず生産者に使ってもらい、フィードバックを早く入手することを大切にしています。
「UMITRON CELL」は基盤となるインストラクチャー（下部構造）を機能追加やサービスの大規模化がしやすいような汎用的な構造にしているため、前述したような現場主義の開発が可能となっています。生産者に提供するデバイスがインターネットに接続されており、問題が発生した際の早期発見や運用開始後も離れた環境からソフトウェアの更新が可能。現在も新しい機能や障害改善などが、週単位で追加されています。軽微な変更であればフィードバックをいただいた翌日に改修プログラムを実装することもあります。今年のシーフードショー（８月東京）では大きな発表ができると思うので追って報告したい。
斎藤 根底にあるのは「ユーザー目線」での技術導入。技術を実装するためには現場の技術やオペレーション、海という特殊な環境を理解する必要があります。だから当社ではエンジニアも含めて全員が現場に出向く。現場が抱える課題を一つずつ解決することを重要視しています。
――描くビジョンは
山田 生産者は皆、我々では到底及ばない知見やノウハウを持っています。技術面で彼らをサポートする上で近い将来を描くのは「水産養殖のデジタル化」。作業者がこれまでその場の判断で評価していた情報を可能な限りデジタル化することで、社内の他の従業員や専門家などで現場の情報を共有し、時系列のデータや別々の生簀（す）の情報を比較しながら議論、オペレーション改善できる環境をめざします。そのための指標づくりをトライアンドエラーを高速で回しながら着実に進めています。
斎藤 例えば、「UMITRON CELL」に内蔵するコンピュータは給餌時の食いつき具合を動画で蓄積します。これにより現場に行けなくとも、複数の給餌状況を閲覧、比較した上で改善策を練れるようになりました。餌食いの評価もより客観的にできるため、給餌方法を変更して、生産効率が劇的に向上する事例が出ています。データを基点として、養殖生産者の経験やノウハウを今まで以上に活用できるような状態をめざしています。
山田 水産業は労働人口の減少、担い手不足など悲観的なイメージが多いのですが、研究者やエンジニアにとっては面白いテーマにあふれる魅力的なフィールドであり、食料問題や海洋保全の観点でも社会的意義が非常に高い。水産業がもっと盛り上がるようにサポートしていきたい。
――水産業の技術革新における課題は
山田 特殊な環境のため他業界からの技術協力が難しかったのがこれまでの課題。双方のノウハウをシェアすればこれまで以上に早くイノベーションが起こることは間違いありません。
「UMITRON CELL」開発にあたっても当社の技術を養殖業界に提供するだけではなく、水産現場の皆さんの知恵が製品開発の助けになっています。
例えば、ＩＴデバイスを海上の生簀に固定する際、当初はボルトとナットで固定することを想定していましたが、生産者がロープでいとも簡単に固定して見せてくれた。普段から海に出る生産者からすると当たり前のノウハウがソフトウェアや宇宙業界からみたら新鮮でした。
斎藤 ＩＴデバイスなどの最新技術を養殖業へ導入する動きは10年以上前からありましたが、洋上という特殊な環境下での安定的稼働はハードルが高かった。一方、当社には宇宙航空研究開発機構（ＪＡＸＡ）で人工衛星研究開発に従事したＣＥＯの藤原をはじめ、各分野のトップエンジニアがプロダクトを開発しています。技術力の高さや他分野での様々な知見を武器として、約２年間の実証で経験と実績を積み重ねてきました。テクノロジーに興味があり、改善意欲も高い「養殖の匠」のような生産者とのつながりを今まで以上に増やし、テクノロジーの実装を加速させることで、養殖業への貢献を果たしたいと思います。