グループの外にこそ技術力発揮
ニッスイ・エンジニアリング 代表取締役社長 藤本 健次郎氏

 5月に就任したばかりの藤本新社長。ニッスイ時代は水産畑ながら技術系も経験しており、エンジニアリングと無縁ではなかった。震災対応はどう進めるのか。また、ニッスイの外にあることで見えてくる真の提案力、さらに社員の持ち味を引き出す秘訣を語ってもらった。

     藤本社長

 ――5月下旬に社長に就任したが。
 藤本 もともとニッスイに入社してからは技術系を歩んできました。10年ほど船に乗っていたこともあります。当時、ニッスイENGがすり身のプラントを製造し、それをニッスイが使ってすり身を作り、日本に輸入していました。そう考えると、この会社とは縁があったことになりますね。製造関係も担当していたので、図面を見るのも異次元という感じではありません。

 ――全くの無縁ではなかったニッスイENG。これから社長として新しい仕事に着手することになる。震災対応をまずやらなければならない。
 藤本 3.11以降、復旧・復興の仕事に取り掛かっています。グループでは甚大な被害を受けた日本水産の女川工場や、日水物流の仙台港センターの冷蔵庫。さらに岩手にあるハチカンの久慈工場も多くの被害が出ました。
 この間に、久慈工場の缶詰ラインをハチカンの八戸工場に移設しました。缶詰はご存じの通り、これからお中元のギフトシーズンとなり、この需要を逃すわけにはいきません。ゴールデンウィーク明けから作り始めないと間に合わないので、急いで復旧させました。
 女川工場で作っていた練り製品は八王子工場に、冷凍食品は姫路工場やハチカン八戸に移設しました。

 ――復旧に向けてラインの再配置に取り掛かった。冷蔵庫や他の拠点の対応は?
 藤本 仙台扇町センターは荷崩れがあったものの、大きな被害はありませんでした。一方、仙台港センターは1階部分が波にさらわれ、大きな被害が出ており、その状況の把握を急ぎました。
 鹿島にあるファイン工場も深刻で、地盤の液状化に苦しみました。工場内部はほとんど被害がなかったものの、液状化で地表のパイプラインが折れてしまい、稼働できない状態が続いていました。4月中に応急処置をしましたが、周囲の道路もでこぼこになっており、これからが本当の復旧になります。地盤をどうするかなど具体的な対策を練っています。

 ――この震災では、地盤の良し悪しで被害にも大きな差が出てしまった。
 藤本 地盤の重要性を改めて痛感しました。工場や倉庫を建設する際、地盤をよく調査して、地盤に合った杭を選定する必要があります。特に砂地の場合は地震時に液状化の可能性があるので、かなり強度を増すことができる杭の直打ち工法が有効です。しかし、杭を打ち込むときに騒音が激しいため、現在では近隣の住民に配慮し、あらかじめドリルで地盤に穴を開けるケースが多くなっています。
 また、杭を何本使うかでも強度に差が出ます。ここにどれだけ投資できるかになります。

 ――節電対策も重要な課題だ。
 藤本 自家発電機の設置を考えています。どの工場にも設置することが望ましいのですが、必ずしもそのようにいくとは限りません。緊急の際にすぐに発電機を移動できるような体制を整えたい。

 ――発電機への注目が高まっている。
 藤本 発電機を設置する以外にも、消費電力自体をシステム的にどうやって減らしていくかを重要視しなければなりません。どこで電気を使っているか、どこにムダがあるかをコンピュータが察知して、必要でないところは自動的に抑えるというシステムです。このようなエネルギーのトータル的な自動制御システムは食品業界では考え方が進んでおり、大手を中心に導入も増えています。しかし、まだ出遅れている現場もあります。これらのユーザーに対し、技術的にどう貢献できるかが私たちの取り組むべき責務だと思います。

 ――ニッスイグループだけでなく、外部の現場でもこのような技術を待ち望んでいる。この“節電アドバイザー”を育てるには社内で人材作りが必要となってくる。
 藤本 社長に就いてから、一人ひとりの社員と面接をして、何が得意か、何に向いているかをつかんでいることころです。かつてはニッスイの出身者が多かったのですが、今はそうとは限りません。特に若手は外部から来ているものが多く、様々な能力を持っています。彼らをどう成長させていけるか。面接していて、違う持ち味を出せる土壌を持っている会社だと実感しています。
 機械メーカーはいい機械を作り続けることでユーザーに貢献できますが、エンジニアリング会社は形のないもの、つまりはサービスを提供していることになります。私たちは自分たちの会社がニッスイの外にいる意味を良く考えて、建築や地盤対応、防熱対策、冷凍技術など、専門的な知識やノウハウを武器に、常にリードして、次に必要とされるものを提案し続ける会社でありたいと思っています。

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2011年6月8日号掲載