野口正見の「５Ｓ活動による食品工場改善」 −37−
掃除に学ぶ（１）
掃除には不思議な力がある。人の心を変えていく力だ。掃除は誰でもできることであり、当たり前のことである。それは自分の部屋、家庭などを住みやすく、清潔にすることを実行することである。
しかし、一歩公の場に出ると掃除は恥ずかしいことのようだ。人は元来清潔さを本能的に求めている。病魔の恐ろしさを本能的に知っているからである。清潔で整理整頓された空間には癒され、不潔で乱雑な空間では様々なストレスが溜まり、摩擦が生まれる。したがって清潔で整然とした空間には感動させられる。
会社や工場をこのような空間にするには、掃除するという恥ずかしさ、照れを取り除かねばならない。その手段は社長や工場長が掃除を率先し、従業員に清々しさを実感させ、感動を与えることである。
感動とは心に感じて動くことととらえられ、自然に掃除への参加がなされる。この空気をとらえて全社、工場全体の活動に導けば、掃除による清々しい成果を共有し、組織の結束力は格段に向上し、コミュニケーションは良くなる。
筆者が今振り返ると、掃除をしやすくするために整理し、整頓したように思える。それは５Ｓ活動のきっかけでもあった。
トイレ掃除からも多くのことを学ぶことができる
鍵山秀三郎という方がおられる。自動車部品を販売するイエローハットの創業者で、鍵山社長の率先垂範はトイレ掃除をすることだった。
1961（昭和36）年創業。この時期は高度経済成長の始まりで、人手不足の時代だった。零細企業に応募者はなかなか来ず、来たとしても履歴書に書ききれないくらい転職したような経歴の人ばかりだった。この時代の人手不足は筆者も経験している。
何とかこの人たちの心を癒したい、穏やかにしたい気持ちで掃除を始めたとのこと。職場環境を綺麗にしておけば、社員の心の荒みも無くなるはずだ、と考えたそうだ。
『なぜトイレ掃除か』については、�仝�虚な人になれる ��気づく人になれる、�４尭阿凌瓦魄蕕燹↓ご脅佞凌瓦�芽生える、�タ瓦鯔瓩�――を挙げておられる。
トイレ掃除は各地で感動を呼び、1993（平成５）年には『掃除に学ぶ会』が各地で設立され、ブラジルや中国など世界に広がっている。現在は『日本を美しくする会・掃除に学ぶ会』として活動が続いている。
鍵山秀三郎著、亀山民治編『掃除道』（ＰＨＰ研究所刊）に詳しく上梓されている。