海外で商機うかがう食品機械メーカー
カジワラ 代表取締役社長 梶原 秀浩氏
(日本製パン製菓機械工業会 専務理事)

 昨年、シンガポールに拠点を設けたカジワラ。食品メーカーが海外展開する中で、食品機械メーカーはどう動こうとしているのか。今年2月に開催される国際製パン製菓関連産業展(モバックショウ)で同社をはじめ、機械メーカーの取り組みが見えてくるに違いない。梶原社長は同展実行委員長を務める。

      梶原社長

 ――2014年を振り返って。
 梶原 前年と比べて忙しい1年となりました。製パン製菓機械業界全体でもそういった声を各社から聞いています。いま勢いのあるコンビニエンス業界がパンや和・洋菓子の商品開発に力を入れており、設備投資も以前に比べて増しているようです。リテールのパン屋さんやお菓子屋さんにも力を発揮していただきたく思います。先日、あるお得意先様が話されていた言葉は印象的でした。ホールセールの商いに対して「ここでしか買えない、今しか買えない、あなたしか買えない」、そのような商品づくりを目指すということを熱く話されていました。目指す軸が違うので新鮮に感じられました。

 ――新規の投資はありがたい。
 梶原 そうですね。その一方で、昨年は既存の設備への対応が増えた1年でもありました。2013年10月から食品機械に関しての労働安全衛生規則が改正され、機械の危険箇所への安全対策が義務付けられました。機械メーカーの現場をはじめ、ユーザーに対応をご案内したこともあり、ユーザー各社から覆いなどを施してほしいという要望がありました。労働災害は、以前までは建築・土木の現場が一番多かったのですが、監督省庁から指導が入って改善が進み、今では食品工場に対して指導が増えているようです。当社の機械も熱を扱ったり、撹拌するなど使い方を誤れば危険と隣り合わせです。この改正を機に、もう一度機械を正しく理解していただこうと、危険防止の体験教室を始めました。この活動はお得意先から評価を得ており、今後も定期的に続けていきたいと思っています。

 ――製餡や煮炊き、炒めなどのテストに対応できるカジワラカスタマーセンターはユーザーにとって貴重な存在。
 梶原 そのようにご利用いただければありがたいです。ただ、それに満足するのではなく、テストの中で我々から、何がしかの提案ができることを目標としています。奇をてらわず、着実に歩んでいくよう心がけます。

 ――ぶれずに、基本に忠実に。そこが難しい。
 梶原 難しいといえば、当社に限らず業界の多くが苦労しているのが、技術の伝承ではないかと思います。当社も社員の育成が課題となっていますが、食品機械メーカーの仕事は、若手が機械の製作にも、販売でも一人前と言われるまでには、大変時間がかかる職種です。日本食がユネスコの文化遺産になったり、食ブームが続いて生産工場がテレビで紹介されるなど、少しずつスポットライトが当てられ、業界を志望する人は増えています。とは言え、自分の力量が実感として発揮できるまでには年月がかかります。向上心を持って努力する若い人が業界に入ってきてくれるとうれしいですね。

シンガポールに販社、初の海外拠点

 ――シンガポールに現地法人を設立した。
 梶原 13年10月に販売会社を設立、14年から本格的に営業を始めましたから、まだまだこれから。事務所には、加熱撹拌機を展示したショウルームを設置しており、進出する日系食品メーカーに向けてサービス体制の強化を図りたいと思っています。

 ――東南アジアやインド市場などの重要性が増している。
 梶原 現地の新たなユーザーの開拓につながることも期待しています。その点でこの地域の中心であり、情報が集積するシンガポールに設立しました。

 ――シンガポールといえば、日本製パン製菓機械工業会でも現地の展示会「フード&ホテル・アジア2014」(4月開催)に共同で出展した。
 梶原 ミキサーやオーブン、焼成機、包餡機など工業会メンバーの製菓機械を出品、現地の人たちに日本のすぐれた機械や装置、パン・菓子製造技術をアピールできたと思います。工業会メンバーも来場者の熱心な眼差しに手応えを感じたと話していました。
 展示会の前日には、モバックショウのレセプションを開催し、現地政府機関や関連団体、報道関係者に日本のモバックの魅力をPRするとともに、親睦を深めました。国内産業の生産性向上を狙うシンガポール政府にとっても有益な催しになったことと思います。

モバックショウ、開催迫る

 ――梶原社長はモバックショウの実行委員長を務めているが、その意気込みを。
 梶原 私たちのユーザーである食品業界は消費税増税による需要の落ち込み、円安による原材料価格の高騰、少子高齢化によるマーケットの急激な変化、食の安全・安心への取り組みなど大変な変革期にあります。このような中で開催するモバックショウは、製パン・製菓業界が現在抱える課題と、将来への布石を業界全体で共有し、ユーザーが解決策や方向性を見出していただく展示会にできればと思います。

 ――小間数、出品社数ともにバブル崩壊以降、最大規模になるのはうれしい話題だ。
 梶原 新規出品社も増え、これだけ多くの企業に展示会に賛同いただき、うれしく思います。来場者はもちろん、出品者にも有益となるような展示会にします。
 イベントも充実させます。今年は日本菓子協会東和会と日本菓業振興会会員による工芸菓子や引き菓子、上生菓子の品評会と作品展示を行うなど、和菓子の提案が例年以上に盛り上がることと思います。このようなイベントを通じて、業界に関心を持っていただき、将来を担う人材が集まってくれることを願います。

 ――今年はどんな年にしたい。
 梶原 社員一人ひとりの国際感覚をより高めていきたいですね。これからの時代は、貿易担当者だけでなく、営業マン、技術者が国際化を身近に感じていくことが必要。これは会社や社員が、というより日本人として必要なことだと思います。海外に対しては、身構えたり、“他人ごと”と無関心でいるのではなく、世界が日常生活と線上でつながっている感覚を持つことが大事だと思います。
 世界の中で日本がどういう立ち位置にあるのか、どう見られているのか、日本人はどうあるべきかということを考えなければならない時代です。世界とのつながりの中で、自分や家族、会社、国を見ることを実践していきたいと思います。