世界初の技術、“磁気”冷凍
 商用化に向け、日本のパートナー求む

 フランスのエンジニアリング会社、クールテック アプリケーションズは磁気冷凍技術の商用化に世界で初めて成功した。この“磁気”を使った冷凍技術は従来のシステムと比べ、環境に配慮し、低コストなのがポイント。このシステムを商品化するため日本のパートナーを探している。

ミュレール社長(写真右)とドゥルクール営業部長
机の上には、磁気を冷媒としたシステム

 従来の冷凍技術はガスを使用したコンプレッサーで冷却している。しかし、「冷媒として使うガスはコントロールがしにくく、環境とコストの両方の面で課題がありました」とクリスチャン・ミュレール社長。ガスの圧縮と膨張により、温度変化を生じさせるが、このときにかかる圧力はおよそ100バール。冷凍機には耐久度の強いチューブを必要としていたと説明する。
 また、コンプレッサーの回転数でも負荷がかかり、「1分間に1800回、多いケースでは3000回ほどにも達し、それだけエネルギーを必要としていました。機械の耐久年数も非常に短くなります」と指摘する。
 しかし、同社が開発したシステムでは、それまで100バールかかっていた圧力値は2バールに。コンプレッサーの回転数も1分間に30〜120回と軽減することに成功したという。ガスを使わず、磁気に着目した。
 「当社の磁気冷凍技術は冷媒ガスを一切使わず、物質の温度変化によるエネルギーを利用します」(同)。この物質は鉄(Fe)を主体とした合成金属であり、マンガン(Mn)、ランタン(La)なども含んでいるという。「様々に試作を重ねた結果、ようやく作りだした合金。最適な配合をすることで冷媒として機能するとともに、ガスとは全く異なる仕組みを築きました。環境の負荷軽減でもかなりの結果を出しています」と胸を張る。試験データによると、必要エネルギーは従来型に比べて40〜50%削減しているという。

 この磁気を使った新たな冷凍技術を作り出すのに10年の月日を必要とした。10年にわたる研究開発と、磁気学、水力学、機械工学、熱学、化学など多様な分野の技術を駆使して得られたこの磁気冷凍技術は、40カ国以上で270以上もの特許を取得している。
 2015年、このシステムの量産化に成功したのをきっかけに、より実用的なものにしたいと意欲に燃えている。
 それが日本だった。「日本の産業界は環境に対する意識が年々高くなっています」とマーケティングを担当するヴァンサン・ドゥルクール営業部長。スーパーマーケットやコンビニエンスストアでも環境に配慮した冷凍システムを導入している動きに注目しているという。「量産化に成功し、いよいよ商業ベースで動き出したのを機に、当社にとって未知のユーザーである日本の皆さんにアピールできれば」。2人は新たな市場の創造に期待を寄せている。
 
 今年8月、横浜で開催された「第24回国際冷凍会議」に出展。ワークショップで「商用冷凍用途のための磁気冷凍」に関するプレゼンテーションを行った。この画期的な技術に対する関心を喚起し、性能を理解してもらうとともに、日本市場に参入する際のルール、手続き、最適な方法などについて情報を収集した。
 期間中、日本の大手ショーケースメーカーなど数社とオフィシャル的な商談があったという。そのほか、ワークショップには冷凍システムに関連深い会社や研究者の訪問があり、日本での将来の実用化に向けた様々な意見を交わすことができたという。
 「今後も磁気熱量システムの導入によって製品が大きく変わる可能性がある適用市場の主要なキーパーソンとの交流を目指しています」。2人は目を輝かせている。

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2015年11月4日号掲載