野口正見の「5S活動による食品工場改善」 −30−
T工場の事例

 工場長のリーダーシップにより5S活動を既に実施していた。したがって5S活動については積極的だった。しかし、工場長のリーダーシップが強く、従業員にとっては“やらされる5S”であり、そのため不具合への気付きの感性が未熟だった。

     野口正見氏

 そこで会社全体で5S活動を推進することを社長が宣言するとともに、経営陣がパトロールに訪れ、不具合を指摘するので、その活動推進に拍車がかかった。
 この工場は効率的なラインの構築に制限がある一方で、生産量の増大が要請されていた。そこで整理・整頓を徹底し、スペースを確保し、新たな凍結装置を導入、ラインを増強し、この課題を解決した。
 5S活動の中で、区切られた作業場の機能を再検討し、レイアウトの改善につなげていた。若い従業員たちは交代で委員になり、悪い点を指摘し、意見を積極的に発言するようになり、自主性が芽生えてきた。従業員には責任の範囲が機械類はもちろん、壁から天井まではっきり決められた。

 調味料・香辛料などを秤量する作業場は機器類の掃除にエアーガンを使用していたので部屋には粉が舞い、粉の飛散で汚れていた。しかし新入社員の一言「掃除機を使い吸引したらどうですか」の提案があり、早速実行され、室内は衛生的で綺麗になった。
 古くからいる従業員は従来のやり方が当たり前として気がつかなかった。新入社員の意見がこだわりなく採用されたことは、風土が変わりつつある兆候でもあった。
 普段、ものを言わない部下を委員が5Sパトロールに引っ張り出し、彼らが不具合箇所に気づき、声を出して指摘した事に、委員は感激し、委員会でそれを報告していた。5Sが理解され、嬉しかったのだろう。こういう小さな積み重ねが成果に結び付き、継続・習慣化への原動力になる。
 地方の工場は経営陣のパトロールを歓迎し、経営陣は現場の資産、生産活動、従業員の姿勢をパトロールにより実感できた。

 A社は2010年11月に緑豊かな工業団地に新工場を建設し、従来の本社と本社工場、第2工場を移転した。2011年12月に私も訪問したところ、旧工場の問題点をほとんど解決し、効率的で、衛生上も優れた現場が構築されていた。
 5Sも継続され、従業員はあいさつも気持ち良く行ない、整然と作業に従事していた。品質管理室長は5S活動をしていたことが工場の設計、移転に非常に役に立ったと私にうれしそうに報告してくれた。