マイクロ波化学(大阪府吹田市、吉野巌社長)と住友化学はメタンをマイクロ波で熱分解し、水素を製造するプロセス(工程)の共同開発に着手した。2030年代前半に商業生産を開始する。生産能力は年間数万tをめざす。
水素は空気中の酸素と反応させることで発電するほか、燃焼すれば熱エネルギーを発生する。発電時に出るのは水だけでCO2は一切排出しないため、脱炭素社会の実現に向けた次世代エネルギーの1つとして注目を集めている。
水や石油、天然ガス、廃プラスチック、バイオマスなど様々な原料からつくることができるが、最近は太陽光発電などの再生可能エネルギーを使った水電解で水素をつくったり(グリーン水素)、化石燃料から水素をつくる際に発生するCO2を回収して地下に貯蔵したりする(ブルー水素)技術開発が進められている。
今回はメタンを熱分解して水素を製造する(ターコイズ水素)。この製法の利点は水素の製造と同時に、工業製品に使われるカーボンブラック、カーボンナノチューブなどの固体炭素が得られること。
一方でメタンの熱分解反応を進めるには膨大な熱を与える必要があり、製造にかかるエネルギーをいかに低減するかが課題だった。そこで、マイクロ波化学が持つ技術を活用する。
電磁波の一種である「マイクロ波」は分子や原子を振動させて反応器(製造設備)内の目的物(メタンガス)を中から直接、選択的に加熱することができる。この特性を活かすことで、製造設備の外からメタンを間接的に加熱する他のプロセスに比べて、水素製造に必要なエネルギーとCO2排出量を低減できるほか、製造設備の大型化が可能になる。
日本は海外に先駆けて物流現場や産業分野で水素の実用化に向けた取り組みを進めているが、水素の安定供給や調達コスト、インフラ整備、需要拡大など、実用化までにはいくつもの課題がある。今回の共同開発は水素の安定供給と調達コストの低減に貢献することが期待される。
マイクロ波化学はマイクロ波の実用化を産業レベルに引き上げたことで各方面から注目を集め、すでに医薬、電子材料、食品(乳化剤)、環境(ケミカルリサイクル)の分野で技術採用が進んでいる。