全国農業協同組合連合会(JA全農)はAI画像認識技術を使った国内初のカラス対策機器「音撃カラススナイパー」を開発し、このほど試験販売を開始した。これまでに食品工場や配合飼料倉庫、市役所庁舎などで実証実験を繰り返してきたが、いずれの場所でもカラスの飛来数が激減した。特に食品工場は期間平均で減少率が99.5%を超えた。
畜産生産部推進・商品開発課の嶋亮一課長代理(医学博士)は10月27日に開いた記者会見で「食品工場では実証実験を2年間行ってきたが、効果は今も続いている」と語り、従来の対策機器に比べて持続性が高いことを強調した。
AI画像スタートアップとの共同開発。高精度のAIカメラでカラスを検知し、音で撃退する仕組みだが、ポイントはAIカメラがカラスを一度補足(ロックオン)すると、カラスがどこに移動しても緑色のフォーカス枠で追跡し続けること。検知した次の瞬間、周波数の低い特殊な音を発してカラスを威嚇し追い払う。
従来のセンサーでは人や葉っぱなどにも反応して音を発していたため、知能が高いカラスには次第に効かなくなることが多かった。今回の新製品は「知能の高さを逆に利用した」(嶋氏)。カラスだけを狙って音を出すため、賢いカラスはそれを理解して脅威に感じ、効果が長時間続くという。
カラスの飛来数や動画は機械が自動取得して蓄積する。これも従来は撃退の効果を感覚で見極めるしかなかったが、定量測定することで効果の見える化を可能にした。
AIがカラスをロックオンしている様子
国内で鳥獣による農作物の被害額は年間約161億円に上り、このうちカラス被害は約14億円と言われる。ただ、今回の「音撃カラススナイパー」はまずは企業や自治体をターゲットに提案していく。食品工場や倉庫、市街地は農地に比べてカラスを補足できる範囲が狭いため、すぐに効果が出やすい。「農地に対応するにはまだハードルがある」(嶋氏)という。
本格販売は来年4月を予定しているが、 実証実験の効果を耳にした食品メーカーなどからすでに問い合わせが多数寄せられているという。
導入費用はAIボックス、カメラ、スピーカーの基本セットの買い切りで約150万円(設置作業費は別途)。導入後に費用はかからない。さらに、AIシステムを導入する場合、ふつうは学習用の教師データを現場に合わせて新規に取得する必要があるが、取り込み済みの画像を汎用データとして使うことができるため、作業負担は発生しない。導入ハードルが低いのも大きな特長といえる。
カラス対策機器の基本セット(AIボックス、カメラ、スピーカー)