阿部万寿雄の「食の安全」と「ものつくり」 −12−
ＨＡＣＣＰ認定工場への挑戦（１）
千葉県船橋市に「佃の匠」を社名とし、江戸前の伝統の味を頑（かたく）なに守っている佃煮メーカーがある。あさり貝の加工では日本一の実績を誇り、伝統の秘伝の味を伝承し、今日も貝の佃煮を作り続けている。
伝統の味を守る職人のトップは長老の会長で、頑固おやじの典型。その配下に会長の薫陶を受けた職人が頑なに貝の佃煮を炊きあげている。
会長は大変な技術知識を持ち、経験が豊富。佃煮組合や地域食品業界の会長も務めたという業界のリーダーあり、人格者。驚いたのはＩＳＯ9001の取得は会長の発案によるものであった。
一方、社長は会長の長男で、大学では電子工学を学んだＩＴの専門であるが、途中から家業を継いだ、近代的な優れた経営者である。しかし食品の衛生管理・製造の経験は浅かった。
事業を取り巻く環境は、消費者の食品メーカーに対する安全・安心の要望が厳しさを増すばかりで、その対応に苦慮しているところだった。
秘伝の味を伝承し続ける佃煮メーカー、ＨＡＣＣＰ認定工場への挑戦が始まった
同社は千葉県産業振興センターの支援を受けることとなった。そこで筆者は食品技術の専門家として、彼らに食の安全対策のため、大日本水産会のＦＤＡ方式のＨＡＣＣＰ認定を取得することを勧めた。
しかし、会長も社長も、本当にＨＡＣＣＰ認定工場の取得ができるか自信がないということだった。
企業診断の結果、問題点として指摘した事項は以下の通り。
�＿饉卅反ゾ紂⊆卍皇沼阿瞭販�した品質管理組織がない。
�∪貲い良兵全浜�者がいない。製品の安全衛生の保証ができない。
��細菌検査室がない。外部依頼の検査では製品の保証や現場の改善に生かせない。
�だ渋さ蚕兌圓浪馗垢鯆催世箸靴匿�人的な加工技術者。経験は十分あるが、科学的な測定・記録がない。技術的な教育訓練を受けていない。
�ソ抄醗�の食品衛生の教育訓練がされてない。
��施設・建物の老朽化が進んでいる。しかし改修資金が不足している。
以上のような問題点を改善するため、認定取得プロジェクトチームを発足させた。
活動期間約１年（月１回）午前中研修・午後は現場で問題指摘・実践教育を行ない、研修の成果を現場で生かす活動を繰り返し実施した。この活動を通し、会社幹部・品質管理担当者・現場従業員の理解を深めていった。（次号へ続く）