タイの食品工場ルポ��
スラポンニチレイ、カビンブリ工場を大拡張
スラポンニチレイはカビンブリ工場に新工場を建設している。初めて見る人なら誰もが驚くだろうその大きさは既存工場の倍近い。敷地は１万7600�屬粘�存の敷地より小さいとは言え、建物は冷蔵倉庫や原料倉庫を含めると9900�屐２湛�室だけでも140ｍの長さがあり、完成すれば原料から加工室、製品倉庫まで直線的に並ぶレイアウトとなる。完成後、農水省の監査終了後に稼働を開始する。
建設中のカビンブリ新工場
同社は水産加工品でスタートしたテパラク工場に第１、第２工場があり、第３工場のカビンブリ工場は鶏肉加工に特化してきた。同社の昨年の生産量は１万5000〜１万5500ｔ。生産能力的には１万8000ｔあるが、新工場の完成後は２万5000ｔとなる。
新工場の大きさは、生産能力の増大のためというより、新たな商品開発の可能性を追求した結果といえる。
同社は手作り感を重視しており、既存工場も元々は広めに設計していたが、生産内容の変化で手狭になっていた。
新工場はラインをストレートにして工程間を長く取ることで、手を加えた商品の生産が期待できる。まだ具体的にどのような商品を作るかは決まっていないが、例えばフライヤーから出てきた唐揚げを串に刺すという工程も可能になる。
大型工場にしたのはタイの税制優遇制度も関係している。８年間税金が免除される優遇制度が終了する前に大きな工場を建てておき、当初は２ラインでスタート。投資16億円はスラポンニチレイの自己資金でまかなう。
スペースに余裕のあるストレートラインは効率化・省人化にもつながる。
カビンブリ郡はバンコクから車で３時間ほど。都心と離れているが、それでも従業員の確保は毎年のように難しくなっている。1000人が働いているが、その40％が50kｍ圏外から通勤している。
杉野正幸社長は「できれば近隣に社宅を建てたい」と言う。長距離通勤は従業員の負担になるし、送迎のコストもかかる。
床下と言うより地下室に近い構造、ここに冷凍機の一部を設置して効率を高める
新たな機能も
杉野社長
新工場は新たな試みを取り入れた。冷凍設備がその一つ。冷凍設備の一部はスパイラルフリーザー直下の地下に設置することで長い配管が不要となり、エネルギーの無駄使いを抑制する。メンテナンスも地下でできる。
夜間電力を使った製氷装置で昼間の空調負担を軽減する仕組みも導入する。照明は従来の半分の電力で使える細い蛍光灯を採用。事務所はＬＥＤとハロゲン照明を使い分ける。
当初設置するのはフライヤー＆オーブンラインとダブルフライライン。フライヤーは蒸気を熱媒としているので、直火と比べ室温に影響が少ないため、労働環境が良くなる利点がある。
包装室も広めに確保し、様々な商品形態に対応する。人の入り口は包装、加熱、未加熱とエリアごとに別にする。
２階にはＲ＆Ｄ室、休憩室、製造事務所、客室などを設置する。広い加工室を見渡せる長い見学通路も設置する。２階の床と１階の天井の隙間は広く確保しており、ネットワークやモニタリングシステムの導入に対応できる。事務所はクリーム色を基調に「やさしいイメージで仕上げたい」（杉野社長）という。
風通しの良好な労使関係に配慮
工場の規模拡大は従業員のモチベーションアップにもプラスしているようだ。工場全体に「元気さ」、「明るさ」を確実に感じる。
スタッフの資質も高い。訪問中、現地の管理スタッフは互いの会話ですら英語を使っていた。タイ語がわからない訪問者に気を遣ってくれたのだろう。スタッフクラスは年120時間の教育を受けさせているという。
日本での研修は年６回、昨年は延べ20人が日本に勉強に来た。生産技術を学ぶだけではない。むしろ、日本のユーザーを知ってもらったり、日本の事情を目の当たりにすることが狙い。なぜ部分的なトレサビではだめなのかということも、理屈ではなく肌でわかってもらえるようになる。
ワーカーとのコミュニケーションも重視している。
工場では毎月１回の全体集会を行ない、杉野社長も直接従業員に話しかける。会社内には「ご意見箱」を設置し、ワーカーが問題視していることや意見などを汲み取っている。
最低賃金の上昇に順じて従来から働いている社員もベースアップした時は感謝の投書が多数来た。タイは毎年のように最低賃金が上がるため、既存社員と新規採用社員の賃金に逆転現象が起きることもある。従業員の不満が万が一の事件につながる可能性もあると考えれば、労使のコミュニケーションが何より大切であることは言うまでもないだろう。
さらに、今後３年で推進する方針なのが環境対応。水処理施設は魚が棲めるほどの水質に戻せるほど高い能力にした。既存工場も照明を省エネタイプに変更。単位あたりＣＯ２排出量は、日本でも高水準な船橋工場と同レベルになっているという。グリーン購買やリサイクル活動も活発で、従業員が積極的に参加している。
一方、水産加工でスタートしたテパラク工場は水産製品をほとんど手がけなくなっている。現在は全社的にチキンに特化した形だが、将来は冷凍寿司に限らず、新たな分野も手がけていく方針。