“骨なし魚”、残骨ゼロめざす
セイショウフーズ 代表取締役専務生産本部長 山本 佳嗣氏

 煙台正祥食品(山東省莱陽市)は、日本のセイショウフーズと中国の龍大食品集団の合弁会社で、大冷(東京、齋藤修社長)の人気商品「骨なし魚」を生産する主力工場。現地に駐在し、同社工場を統轄するセイショウフーズの山本佳嗣代表取締役専務生産本部長は「骨なし魚の世界No.1工場として、残骨ゼロをめざしている」と語っている。

骨なし魚の残骨、100万食分の1を切る

セイショウフーズの山本佳嗣代表取締役専務生産本部長
(写真右)と井口喜貴執行役員品質管理部長

 2014年(1〜12月)の「骨なし魚」生産量は約4300t。前年の約4500tと比べて約5%減少しているが、「2013年から始まった急激な円安と原料高を考えると、この程度の数量の減少は、健闘している」と説明する。
 同社は残骨率ゼロをめざす中で、昨年の残骨率は初めて100万食分の1を切り、0.9食となった。つまり100万食のうち1食以下、という驚きの数値を記録した。「当社で使う原料魚は全て日本を含めた海外からの輸入品。中国産で使っているのは水と塩のみ。水も日本の技術を導入した自前の浄水装置できちんと処理しており、問題が出たことはない」と言い切る。
 天然の水産物を原料として使う難しさは当然ある。しかし「当社は信頼できる船から毎年継続して調達している。他社の魚が安いからと価格ありきでは購入しない。これが原料の品質と安全性を継続的に維持する大きなポイントになっている」と自信を示す。
 中国の経済発展に伴い、人件費、その他のコストは毎年確実に上昇しているが「自分たちが価格競争に走れば、品質や安全性は担保されなくなる」と警戒する。こうした生産コストの高騰を背景に、一時期はベトナム工場も計画していた。
 実際、ベトナムの工場で3年ほどテスト操業に挑戦したが、工場管理の問題もあり「最終的には断念した」という。ベトナムの魚は前浜で漁獲したものが主力で、トレーサビリティが利かないことに加え、「魚によって原料解凍や加工温度を細かく調節する必要があり、温度に鈍感なベトナムでは調整が難しい」というのも断念した理由のひとつ。

中国での加工を日本で行うとコスト2倍

 毎年人件費が上昇している中国を敬遠する業界の潮流はあるが、同社では「例えば、さんまを日本で同じ骨の除去作業を行なった場合、7割は高くなる。もちろん魚種によって加工の難易度は変わるが、端的に表現するならば日本での生産コストは2倍に相当する」という。
 調理冷凍食品工場の場合は毎年のように機械化、自動化が進んでいる。骨を抜き取る機械も現実に存在するが、「機械による残骨率ゼロをめざすと、残骨のリスクが高くなる。鮭の場合、当社では骨を数えながら除去しているから可能だが、機械では全ての骨を取り除くのは無理。逆に残った骨を見つけ出すのに膨大な時間と手間が掛かってしまう」という。

安全の再確認で工場見学者が増加

 昨年来、中国の食品に関する事件や事故が相次いだこともあり、「日本から工場見学に来る訪問者(最終ユーザー)が増えている」という。「他の工場とどこが違い、どんな優位性があるのかを説明することで、顧客は安全を再確認して取引を継続してくれる。食の安全がクローズアップされている中で、顧客が工場を再確認するための訪問件数が増えている」という。
 日本人スタッフ4名が工場に常駐し、始業時から終業時まで工場内で管理する体制を15年も前から実践している。
 魚の加工は、室温、他を調整し、「その解凍速度に合わせて加工するのが当社の技術」だという。そのため通常の魚加工場では氷や水を多く使って品温が上昇しないようにしているが、同社では必要としない。また菌の繁殖も少ないので、熱湯による消毒だけでも菌増殖防止のコントロールが効くとのこと。
 山本専務は「2015年は真に我慢と選別の年だと思う。必ず淘汰される企業が出てくるだろう。この中で生きるには、顧客の厳しい選別に勝ち残る他ない。メーカーとして、企業、人物、ブランドを強化する。企業体質を筋肉質に作り変えることが大事だ」と語っている。