発明功労で旭日小綬章、本紙に喜びの声寄せる
�螢�ジワラ 代表取締役会長 梶原徳二氏
日本製パン製菓機械工業会の元理事長でカジワラ（東京都台東区）会長の梶原徳二氏（86歳）は春の叙勲で旭日小綬章を受章した。世界に先駆けて開発した「加熱撹拌機」をはじめ、蒸気熱と電磁加熱を組み合わせた「ハイブリッド加熱撹拌機」など画期的な製品を数々生み出してきた。
食品機械業界では“稀代の発明家”として知られ、功績表彰は枚挙にいとまがない。今回の受章は科学技術の発展に寄与した「発明考案功労」を国が称えたもので、旭日小綬章ではまれなケース。推薦省庁も経済産業省ではなく文部科学省。梶原会長は「食品機械は地味な存在だが、職人たちはこの世界に誇りを持って人生をかけている。叙勲は業界へのご褒美」と喜びの声を本紙に寄せてくれた。
「あん煉り機」がカジワラの原点
梶原会長
――旭日小綬章を受章して、いまのお気持ちをお聞かせください。
梶原会長 戦後、合羽橋（東京都台東区）の創業地（焼跡）に町工場を再興して、ようやく稼働を始めた頃、上生和菓子用の高品質のあんを煉（ね）る機械の製作を依頼されました。以来、加熱と混合の同時加工による味づくりの機械（あん煉り機）の開発と改良を続けて今日に至ります。
小豆と砂糖の混合・加熱という工程に過ぎませんが、「あんは和菓子の生命」と言われます。私は日本の伝統文化を支える、この食品の精緻な味づくりに集中的に関わってきました。
「あん煉り機」の成功によって和菓子、ジャム、クリームからさらに輪が広がり、加熱による変化と食材との混合・撹拌によって新しい味と物性が創られる機械として注目が集まりました。これに答えるためカジワラの機械は多角的な展開をし、ほとんどの調理加工食品の生産に使用されるまでになりました。
カレーや調味料、惣菜など多様な調理食品を加工する際、手作りで育まれた味づくりの製法を大量生産と工業的管理システムのもとに展開するツールとして使われるようになりました。
カジワラの「あん煉り機」は日本の味づくりの「加熱撹拌機」として、欧米にもなかった新しいジャンルの機械として、発展を遂げてきました。
この度の受章は文部科学省の「発明考案功労」として拝受しました。地味な機械ですが、その功を認めていただいたものと、私をはじめカジワラ社員一同、心より感謝しています。
「わが仕事」として渦中に身を投ずる
――数々の開発品の中で特に思い出深い製品を挙げてください。
梶原会長 最初の試作機をそのまま買っていただいた「Ｋ-２型あん煉り機」です。
最高のあんを煉りたいというお客様の希望を受け、和菓子の生命と言われる「あん」の研究に始まり、職人さんたちの伝統的な煉り方を学び、分析するところからスタートしました。これが斜め軸自転公転方式のあん煉り機（煮炊撹拌機）でした。
――世の中にないものを生み出してきた原動力は何でしょう。
梶原会長 お客様の生産現場に密着して、問題点を直に伺うことです。そして機械メーカー（当事者）として、「わが仕事」として渦中に身を投ずる心意気が最大の原動力だと思います。すべて他の業界でも同じではありませんか。
永続できる「三方好し」の商売を
――新たな時代に求められる食品機械の役割は何だとお考えですか。
梶原会長 食品機械の役割はより多くの人々の生存に不可欠で、おいしい食品の生産を目的として、合理的な製造手段を供給することです。特に量産可能でより安く、衛生的に安全で、安心して喫食できる生産機能を有することだと思います。この役割・機能は時代と地域・環境によって、必要な局面で変化することもあるでしょう。
人類の存続という根本的視点から言えば、農漁業を原点とする食材の永続的（Sustainable）な生産と多民族に有効な加工生産、調理が必要であり、その手段としての機械・器具の開発の視野はより広く維持されなければならないと思います。
――最後に食品機械業界に叱咤激励を。
梶原会長 特に叱咤することはありませんが、いかなる商品の製造・販売に際しても、単純な模倣品製造の商売は開発者の名誉を傷つけると同時に、模倣者の品格を損ないます。お互いに優れた製品を競い合って供給し、永続できる「三方好し」の商売をして頂ければと願っています。
食品機械は地味な存在であり、製造にはローテクの生産工程が必要であり、機械の原材料、改質、加工などに熟練した職人が必要な業界です。彼らは生産される食品の味に喜びを感じ、ひたすら食品機械製造の世界に誇りをもって人生をかけています。私もほぼ一生をここにかけてきました。最後に頂いた勲章はこの業界人全員へのご褒美であると思っています。
（かじわら・とくじ）1933年東京生まれ。1967年梶原工業社長。2005年梶原工業、カジワラ会長。食材を低速で微細に混合しながら加熱調理する撹拌機構という欧米にもなかった独自の機械「煮炊撹拌機」の開発で1964年御法川発明賞・通産大臣賞を受賞。他にも数多くの発明表彰を受ける。1991年科学技術庁長官表彰。1992年黄綬褒章。2014年知財功労賞特許庁長官表彰。現在は内閣府「知財創造推進コンソーシアム推進委員」、（公社）発明協会監査役などの要職を務める。一橋大学法学部、経済学部卒。