ミキサー64年、専門メーカーの存在感顕示
愛工舎製作所 代表取締役社長 牛窪 啓詞氏

 製パン・製菓業界を長年支えてきたミキサーメーカー愛工舎製作所。新商品・新市場創出に苦心するユーザーに向け、「専門機械メーカーとしての立ち位置を改めて示す時が来た」と牛窪社長は気を引き締める。業界の「常識」となった機械の盲点にも斬り込む。

牛窪社長(本社ショールームにて)

 ――昨年の製パン製菓機械業界を振り返えると?
 牛窪 設備投資が鈍っており、厳しい状況は続いています。新規の投資が少なくなり、修理で何とか持ちこたえたいというユーザーが多く、投資を次回に繰り越すケースが増えています。製パン製菓機械工業会の統計では、機械の出荷額が前年比で6%減となり、2年連続で減少する結果となってしまいました。これ以上の減少を避けるために、我々機械メーカーはユーザーに対する提案力をこれまで以上に強めなければいけません。

 ――その一方で、大手の菓子メーカーでは生産拠点を再編するなど積極的な動きも見られる。
 牛窪 大手メーカーと中小メーカー間で2極化が目立ってきました。当社で年末開いた勉強会にも、工場再編を進めている大手菓子メーカーの担当者らが10名以上参加し、熱心に聴講していただきました。積極的な姿勢が窺えます。大手のベーカリー店でも「価格は高くてもおいしいパンを提供したい」と考えている人気店は成長を続けています。

 ――中小規模の店舗では?
 牛窪 例えば昔ながらのやり方を続けていたり、同じパターンを繰り返している地方のベーカリー店は大変苦労しています。以前まで学校給食で食べられていたパンも、米が主流の時代となりました。学校給食向けに代わる事業として、自分たちでリテールを展開しようと試みても、ノウハウがないために廃業に追い込まれるケースも多く見てきています。リテール展開が軌道に乗っているベーカリー店は、学校給食でパンが食べられる機会が減ってしまっても耐えうる基盤を育てています。
 しかし、学校給食を続けている事業者も黙っているだけではありません。内麦利用による製パンや、米粉を一部使用したパンなど色々と意欲的な試みがされつつあります。地域に親しまれる新たなパンづくりを志向するメーカーも現れています。

 ――リテール展開の知識がないと淘汰されてしまうわけだ。ユーザー層が苦労している中、機械メーカーとしても、他社と差別化した提案を積極的に仕掛けていかなければならない。日本市場は競争が激しく、飽和状態。そこで中国に目を向ける必要がある。工業会でも「中国市場を視野に」と盛んに叫ばれている。
 牛窪 中国には受け皿となる市場があり、今後も成長するでしょう。中国の富裕層を中心に日本のパン・菓子に関心が高まっています。しかし、それらを製造する機械類は現地製で日本のコピー機が圧倒的に目立ちます。以前に比べて性能は上がってきてはいますが。
 彼らは日本のパン・菓子に近づこうと、日本の関係企業の退職者や技術者をコンサルタントとして招いています。それも以前は誰でも受け入れる傾向がありましたが、今では厳選して採用しており、本気さを伺えます。

 ――この“本物”を追求している層をターゲットにするわけだ。
 牛窪 富裕層は日本製の性能や品質を理解していて、クオリティの高いパン・菓子を作り、企業としてベーカリーにしっかり取り組んでいこうとする人たちです。私たちのミキサーなどにも関心を示しています。

 ――いよいよモバックショウが今月開催される。中国などアジア諸国からの来場者はもちろん、日本のユーザーにも改めて技術力を知ってもらう機会となる。
 牛窪 主力のミキサーを手がけて、今年で64年目になります。ここでミキサー専門メーカーとしての位置づけを改めて伝えたいと思います。実績のあるミキサーを多数展示し、さらに新型のミキサーを発表します。「安全」、「衛生」、それに「使いやすさ」を兼ね備えた機種となっています。安全と衛生を追求すると、機械はどうしても使いにくくなってしまう傾向にあります。使いにくさは作業者のストレスとなってしまい、生産性に影響します。

 ――使いやすい機種は長く愛用される。具体的にはどう配慮した?
 牛窪 人間工学的に細かい部分に配慮しました。腰を曲げずに済む設計にし、身体に与える負荷を低減しました。「腰を曲げずに済む」発想、これは実に単純です。しかし、腰を曲げる作業が業界ではあまりにも定着してしまい、それを改善しようとする考えが浮かばないほどになっていました。

 ――諦めに近いものがあったようだ。
 牛窪 ミキサーの他に、オーブンにも力を注ぎます。ドイツMIWE社のオーブンを日本で販売して15年目。提案から販売、そしてメンテナンス・・・というようにようやく一巡したことになります。この15年の経験を活かし、さらに拡販しなければなりません。
 また、展示会期間中の4日間、日替わりで著名な講師による実演を行ないます。この講師らは昨日今日始めた付き合いではなく、長年当社とともに歩んでおり、機械も愛用している人たちです。その性能を伝えるのに充分すぎる人材でしょう。是非期待ください。

 ――開催が楽しみだ。今後の展開は?
 牛窪 実はあまり知られていないことですが、当社は水産メーカーにも機種を納めています。「製パン・製菓の愛工舎」というイメージが強すぎるので驚かれることもありますが・・・。練り物製品はまさにミキサーの技術。積極的に売り込まなかった点を反省材料とし、今後も水産業界と接点を持つ際は、その名に恥じない技術力を研磨していきたいと思います。

フードエンジニアリングタイムス 2011年2月2日号掲載