企業を悩ますGHG算定の救世主
わずか1年余りで2400社が導入

 企業のGHG(温室効果ガス)排出量の算定から可視化、報告、脱炭素化までを支援するクラウドサービスがにわかに注目を集めている。気候変動リスクの情報開示の要請が国内外で強まっており、排出量の算定範囲がサプライチェーン全体に広がっていることが背景にある。算定業務担当者らの負担は大きく、トータルサポート型のサービスプラットフォームの需要が高まっている。

 2021年設立のスタートアップ、ゼロボード(東京都港区、渡慶次道隆社長)は国内でいち早く、GHGプロトコル(国際基準)に則した算定・可視化のクラウドサービス「zeroboard(ゼロボード)」を22年1月から提供している。導入企業はこの1年余りで2400社を突破した。多重下請け構造にある製造業では自動車関連が多いが、「最近は食品業界からも問い合わせが増えている」、「建設業からのニーズも多い」(広報担当者)という。

排出量を簡便に算定、ミス入力を防ぐツールも

 「zeroboard」はサプライチェーン排出量(スコープ1〜3)の算定が可能。企業の活動量(電気使用量、輸送量、廃棄物処理量など)に排出原単位(活動量当たりのCO2排出量)をかけて排出量を算定する。「zeroboard」は複数種類の排出原単位のデータベースを備えており、たとえば自社の電気使用量や輸送距離を入力すれば、国や地域ごとに適切な原単位に基づく排出量がすぐに算定される。

 サプライチェーン排出量とはスコープ1(企業の直接排出=燃料の燃焼など)とスコープ2(他社から供給された電気や熱・蒸気などの使用に伴う間接排出)に、スコープ3(スコープ1・2以外の間接排出)を加えた合計排出量のことで、スコープ3には上流、下流の取引先や自社の出張・通勤時に使用する交通機関からの排出量なども含まれる。スコープ3の算定対象のカテゴリは15分類に及ぶため、算定業務の負担は大きく、エクセルなどでは手入力によるミスを引き起こすリスクもある。

     GHGプロトコルが定義するスコープ1〜3の分類(ゼロボード提供)

 「zeroboard」最大の特長は、組織としての排出量だけでなく、製品・サービス単位の排出量(カーボンフットプリント)の算定機能を搭載していること。カーボンフットプリントの算定には、製品のライフサイクルの各工程でエネルギー消費量や排出量などを細かく計算する積み上げ式や組織としての排出量を按分して算定する方法などがあるが、積み上げ式は精度が高い半面、相当な知見を要するため、同社の専門メンバーが算定の支援も行っている。
 
 「zeroboard」は活動量の算定の元になる電気、ガス、ガソリン代の請求書などを読み取るAI−OCR(光学文字認識技術)や入力代行サービスを提供し、入力ミスや工数削減の課題解決に貢献する。算定方法はGHG算定の妥当性に関するルールを定めたISO14063-3として妥当性の保証を受けるなどしており、信頼性は担保されている。

スコープ3の排出量をしっかり算定

 スコープ3の算定には社内の関係部署の協力だけでなく、サプライヤーなど取引先との連携が欠かせない。特に食品メーカーの場合、原料や容器・包装などのサプライヤーがスコープ3の排出量の多くを占めるため、取引先から排出量のデータ提供を受けることができれば算定精度は高まる。しかし、輸入原料も多く、データ収集に苦労している会社が多い。

 「zeroboard」はアンケート機能を搭載しており、上流のサプライヤーは聞かれた項目に数値を入力して返信するだけ。「zeroboard」が自動で集計する。これによって小規模の調達先の排出量もしっかり拾うことができる。

 広報担当者は「サプライヤーから実際の排出量データ(1次データ)を受けたほうがスコープ3の削減につながりやすいが、まずは環境省等が公表している排出原単位(2次データ)を使って算定し、徐々に算定の精度をあげていくことが重要」と指摘する。

         ゼロボードが提供する「zeroboard」の主な機能

大手企業出身の専門家が伴走支援

 算定・可視化のクラウドサービスの市場はスタートアップを中心に活況を呈しているが、ゼロボード社は各業界に精通した専門家の伴走支援で競争優位に立つ。三菱商事グループやいすゞ自動車、日清製粉グループなどでサステナビリティやESG経営の推進を担ってきたメンバー数十名が在籍している。広報担当者は「これだけの人数の専門家を抱えるスタートアップは他にない」と言い切る。

 支援内容はどの領域を優先して算定し、情報開示と削減に取り組むべきか、データ収集にあたるチーム体制をどう構築するかなど幅広い。顧客によっては専門家が深く入り込んで取引先の排出量削減にまでつなげるケースもあるという。

 算定・可視化、報告の後の排出量削減フェーズでは長瀬産業をはじめ関西電力や岩谷産業、三菱商事、住友商事、三菱UFJ銀行などのアライアンスパートナーが持つソリューションを提供する。ゼロボード社はあえて自社では削減策を持たない。パートナーがカーボンクレジットからファイナンス、再エネ・省エネ(電力プランの切り替えなど)、低CO2排出の原材料調達まで顧客の課題に合わせた解決策を提案する。

 質の高いアライアンスパートナーをどれだけ多く持てるかがビジネス拡大のカギを握る。ゼロボード社が多彩な企業群と連携できるのは大手系列の子会社ではなく、独立系であるため。

 広報担当者は「当社が自社ソリューションを持ってしまうとあらゆる企業と組むことができなくなる。中立性の高い独立したプラットフォームをめざしている」と語る。

 ビジネスフィールドは国内にとどまらない。アセアンでの事業を加速する計画で、タイに現地法人を今年3月設立した。タイには日本企業の製造拠点やサプライヤーが多くある。しかも、タイ政府はサーキュラーエコノミーの推進を打ち出しており、ローカル企業にも脱炭素経営の意識が広がりつつある。商機は十分あるとみて、今後はタイを起点にアセアン全域に拠点を展開する。