“人”あっての開発、若手の育成に全力
日本キャリア工業 代表取締役 三谷 卓氏

 昨年7月、専務から社長になった。「ユニークな機械を作るという当社の持ち味を引き継ぐ」としつつも、創業者仲野整会長が先導してきた開発から“巣立ち”、若手主体の開発を育成したいと意気込む。主力の食肉機械を応用して完成した、“キャリア製”の製麺機も気になるところ――。

       三谷社長

 ――昨年7月社長になった。今後の方向性は。
 三谷 専務のときから、実務的な統括は徐々に移行していました。代表となりましたが、気負わずに、当社の持ち味を踏襲してやっていきます。社内もそういった雰囲気です。仲野整前社長は会長になりましたが、創業者で生粋のエンジニア。当社の開発を長年引っ張ってきた人です。今後も開発面などで活躍していただきます。

 ――そういう意味で、仲野会長のDNAは引き続き御社の製品(顔)として生き続けるようだ。
 三谷 そのDNAは当社の明確な存在意義でもあります。食肉加工機械メーカーの中でも後発の会社ですが、だからこそ先行メーカーが手薄なところ、手をつけていないところをメインにコツコツと地位を築いてきました。しかし、ただ業界内のすき間を埋めるというわけではなく、食品加工現場に貢献できる価値ある製品を提案するのが使命であると考えています。当社は大量生産による価格競争力や営業力を武器にするタイプの会社ではありません。他社にないようなユニークな機械を作る・・・。この存在意義を今後も徹底していきます。

 ――ユニークな機械は今後も楽しみだ。
 三谷 ええ、社員一人一人もお客様と同じように楽しみにしていますよ。ただ、私としては、これまで突き進んできた当社の内部を一度振り返る時期に来ているとも感じています。設計から製造販売、顧客情報にいたる様々な情報を効率的に活用するシステムの再構築、現状と今後を見据えた、当社の経営環境に合った諸ルールの整備、経営の“見える化”の推進、サービス向上のためのツールや情報発信の強化――など、足元を固め、社内体制をレベルアップしていきたく思います。

 ――スライサーが好調だ。
 三谷 主力のスライサー「マルハレス」シリーズは発売開始から10年以上が経過しました。食品スーパーのセンターが全国各地で立ち上がり、同時にスライサーも導入が続いています。しかし、ユーザーの中には機能を十分に活用していなかったり、手入れやメンテナンスなどで不安をお持ちの方もいるかもしれません。そこで、開発はもちろん、近年はメンテナンス活動に重点を置いています。

 ――その成果は。
 三谷 当社の機械は代理店を通した販売もあり、代理店は大切なパートナーです。そのためメンテナンス活動は代理店とユーザーの双方に、安心感を持たせることができました。トラブルの予防に重点を置いた定期点検のメリットについて、理解が広がりつつあります。

 ――近年は各地に拠点を立ち上げている。
 三谷 それもメンテナンス活動のために不可欠なことです。2011年に東京事務所を開設し、昨年は大阪にも事務所を構えました。今春、中部地方にも開設を計画しています。それには人材育成が欠かせません。人による説明なきところに機械の本領は発揮できません。人材の育成を強化します。

 ――人材強化の進捗は。
 三谷 一番難しいところですね。今後を担う若い人材を得ようと、新卒者の採用にも力を入れています。賞を受賞するなどして会社の知名度を上げるなど、以前に比べ新卒者にも関心を持ってもらうようになりましたが、まだまだこれからです。

 ――2011年度の「科学技術分野の文部科学大臣表彰」で、スライス肉折り畳み装置付食肉スライサーの開発が「科学技術賞」を受賞した。
 三谷 会社のイメージアップと社員の士気向上を狙って応募したところ、運よく賞をいただくことができました。表彰していただくと、経産省や特許庁、県庁などから、地域でユニークな施策に取り組む際、声がかかるようになります。今でも役所関係者が頻繁に当社を訪れてくれますが、社員からも“キャリアは注目されているんだ”という再認識にもなります。これもモチベーションアップにつながります。

 ――開発こそ“人”なんだ。そう感じざるをえない。
 三谷 人をどう伸ばしていくかですね。仲野会長は食肉機械業界の中でも“長老”のような存在。独特の勘と、長年の経験に裏打ちされたもので開発を進めてきました。今後は、会長が先導してきた開発を、一人の創業者・カリスマに頼らず、成果を出していけるかが問われているように思います。今までは会長の存在と影響力が大きくもありました。しかし、いつまでも甘えてはいられません。当社の持ち味を引き継いでいくと言いましたが、変えるべきところは変えていかなくてはなりません。社員の意識や自主性は今まで以上に意欲的であってほしい。私が見たところ、技術者は皆“これまで以上に、開発してやるぞ”と意気込んでいるようです。私は社員の意欲的な姿勢を信じています。

 ――新しくなった“キャリア”から目が離せない。直近の目標は。
 三谷 4月に開催する製麺・麺業界の専門展示会“麺産業展”に初出展します。昨年のFOOMAで参考出品した十割そば製麺機“めんぞう”を披露します。ミンチなど食肉機械の技術を応用したもので、今までの製麺機にはない、当社のオリジナリティを存分に注いだ機種です。主力の食肉機械でも新製品やモデルチェンジを複数計画しています。今後も他にはないユニークな機械を開発していきたいと思います。期待していてください。
 また、昨年11月にはISO9001の認証を取得しました。、さらに各分野で業務プロセスの改善に向けて全社的に運動しています。引き続き信頼される会社であり続けるため、ワンランク上の体制整備を進めて行く考えです。これからの日本キャリアにどうぞご期待ください。

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2014年3月5日号掲載