昔の養殖ぶりは、魚油が劣化したような臭いがするといわれたのは、いわしなどの魚粉を与えたことが原因と言われている。しかし、黒瀬水産の餌は植物性油を配合しており、いわゆる草食系。こうした餌の違いや、水流の早い海域での養殖により、「黒瀬ぶり」はおいしい養殖ぶりのブランドとなっている。
おいしいぶりを育てるためには、養殖魚の健康管理も重要となる。
同社は養殖魚の薬漬け批判から脱却することを目的としたニッスイ養殖健康管理システム「N−AHMS(Nアームス)」を導入している。
低投薬を支えているのがワクチンの接種とダイバーの活躍。ワクチンは稚魚から生産している。潜水士が毎日生簀に入って目視で弱った魚や死んだ魚を回収し、元気に泳いでいるか健康チェックも行っている。病気の蔓延を防ぐ大きなポイントであり、1尾当たりの薬の使用量は10年ほど前の半分くらいになっているという。
しかも、海の生簀で育てている若いぶりをいったん船上にあげ、手作業で1尾ずつワクチンを接種している。
船上で活締めしたぶりを陸に揚げ
温度を測ってすぐに工場内へ
黒瀬水産は3つの海面養殖場と1つの陸上養殖拠点を持つ。
海面養殖場は、九州の中でも南に位置する志布志湾に串間本社と内之浦事業所の2拠点がある。もう一つは日向灘に面した延岡に漁場を持つ延岡支社。いずれも太平洋に面しており、黒潮の恩恵を大きく受けることができるという、地の利を生かしている。
串間は一辺が1kmの海域に200の生簀があり、1つの生簀には5000尾が入る。波が高いこともあり沈下式を採用しており、手間はかかるが、給餌の時は浮上させる。
出荷用生簀から水揚げしたぶりは直ちに機械で活締めし、串間本社のカット工場に。
三枚におろしトリミング
短時間で製品に
工場内ではフィレ、ロイン、ドレス、ラウンドにカットし、トリミングなどの工程を経て包装する。1船分の処理は約2時間。これ以上ない鮮度で処理できるのも養殖ならではと言える。
製品はほとんど冷蔵で、首都圏の量販店などに販売しているが、最近は品質が評価されて京都の料亭でも使われるようになった。カマや切り身など一部冷凍製品もある。
輸出用はもちろん冷凍。ロンドンのレストランでも採用されている。一時期、香港のぶりの6割は同社の製品が占めていたという。(おわり)